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今注目を集める!「リノベーション済みマンション」という選択肢

首都圏で発売された新築マンションの平均価格は上がり続けている。そこで注目を集めているのが、新築さながらの内装や設備を持ちながらも、新築物件よりも安価なリノベーション済の中古マンション。「これからも増えていく」と予測する不動産コンサルタント・後藤一仁さんに、購入のメリットや内見時のチェックポイント、注意したい点をうかがった。

“きれいな中古”として注目のリノベーション済み物件

「不動産経済研究所」が発表した調査によると、2023年3月の首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)の新築マンションの販売平均価格は1億4360万円と、昨年同月の約2.2倍に上がった。購入を検討していても価格面で躊躇している人にとって、新たな選択肢になっているのが「リノベーション済み」のマンションだ。

一般的には、古くなったり悪くなったりした部分を修繕し、まるで新築のような状態にするイメージの「リフォーム」に対し、より大規模で包括的な改修によって、機能や価値の再生のために内装や間取りを作り直した物件を指す。専有部分を一度完全にコンクリートの躯体の状態(スケルトン)にして作り込むフルリノベーションは、機能面などの刷新によって「新たな価値を創造するようなもの」だ。

「リノベーション済み物件は増えており、地域にもよりますが中古物件のうち3、4件に1つほどはあると個人的には感じています。現在、新築や築浅物件の価格が高すぎることもありますが、中古物件を買って自分でフルリノベーションするハードルも、それはそれで高いものです。その点、すでにきれいに作り替えられ、最新型の設備が整っているリノベーション済み物件は人気です」(不動産コンサルタント・後藤一仁さん、以下同)

さらに今後も「中古物件の流通が多い“欧米化”が日本でも進むのではないか」と続ける。

「新築は価格が高く、供給数が減っている状況。すでにある物件はどんどん築年数が経ち、必然的に中古物件が増えます。日本人は新しくきれいな物件を好むため、“中古だけどきれい”なリノベーション済み物件はおのずと脚光を浴びてくるでしょう」

金額のブレが少なく、資産価値を保ちやすい物件も

リノベーション済み物件を購入する最大のメリットは「予算の立てやすさ」だ。新築物件と比べた場合、安いのはもちろんだが、すぐに入居できるため、金利上昇のリスクを避けることができる点も見逃せない。住宅ローンの金利は「引き渡し時点」のものに基づく。低金利時に購入してすぐに入居できれば、恩恵を享受しやすいといえるだろう。

また、リノベーション可能な中古物件と比較した際のメリットも大きい。購入後、自身でリノベーションするのはかなり大変なものだ。その上、工事期間中は別の住まいに住まなくてはならず、例えば、家賃とリノベーションを行うために購入した物件の住宅ローンや管理費等のダブルの支払いになりかねない。

「リノベーション済み物件は、購入時にすでに価格が決まっているため、原則として追加の費用は発生しません。反対に、自分でリノベーションする場合は注意が必要です。内装事業者探しはもちろん、建具や床材、壁紙選び1つをとってもこだわりが強いほど時間やコストはかかります。リノベーション済み物件を購入し、それらの負担をインテリアや家電選びに費やすという考え方もできます」

また、資産価値を落としにくい物件が見つかりやすいのもリノベーション済みマンションだ。自分でリノベーションできる物件は、自由に好きな空間=個性的な空間を作れる反面、個性を強くしすぎたために、売りたくなった場合に買い手がつきにくくなることもある。

「リノベーション済み物件を取り扱うのは買取再販業者です。彼らは中古物件を買い取る際に、マーケットを調査した上で買い取り、売りやすいと思える物件に作り替えて販売します。そのため、トレンドを汲んだ最新の設備や間取りを考慮している物件が多いのです。きれいで住みやすいだけでなく、万人に受けやすい間取りということは、売るときや貸すときにも比較的買い手・借り手がつきやすく、あまり高い価格でなければ資産価値を落としにくいのも利点といえるでしょう」

確認すべきは「見えない部分」。相場感をしっかりと身につける

人気が高まるがゆえの注意点もある。買取再販業者の数が増えているため、買い手はしっかりと見極めなければならない。インターネット検索で上位に出てくる事業者が「必ずしも良質なわけではない」と注意を促す。特に見た目は新築同然のリノベーション物件では「目に見えない点」に気をつけなければならない。そこで、リノベーション物件を検討する際に確認しなければならないこととして、後藤さんは「配管」を第一に挙げる。

「事業者がコスト削減として省略しやすいのが配管の更新(既存の配管を撤去し、新規の配管を設置する工事)です。物件の築年数や配管の素材にもよりますが、更新されていなければ、入居時点で耐久年数ギリギリのケースもありえます。水漏れなど大きな損害や負担を受けることになりかねません。“配管更新をしているか”は必ず確認してください」

しかし、立ち会う不動産仲介会社の営業担当者が必ずしも状況を把握しているわけではない。その際は、担当者を通じて、売主である買取再販業者に配管更新の有無を確認すると同時に、可能であれば「施工時の写真」や「内装仕様書」を送ってもらうよう頼むといいだろう。また、物件の新築時のパンフレットが手に入るようであれば、「二重床であるか」どうかも確認しておいた方がいい。加えて現地では「点検口があるか」や、可能な物件であれば承認を取って「水圧や水の流れ」を確認できるといい。

「大きな買い物です。どうしても不安な点が残るようであれば、フルリノベーション物件であっても、少し費用はかかりますが『ホーム・インスペクション』(住宅診断士による住宅診断)を依頼することを検討してもいいでしょう。その場合、なかなか難しい面もあるのですが、契約内容に、検査の結果によって例えば“○○が判明した場合、契約を解除することができる”などの停止条件を加えておくことについて売主の承諾を得られれば、なお安心です」

また、購入を検討するにあたっては価格の相場感も身につけておきたいもの。通常の中古物件に、リノベーションによる付加価値が販売価格となるイメージと考えるといいが、施工内容や買取再販業者が物件を仕入れるときの買値などによって大きく金額が変わるのも事実だ。周辺の一般の中古物件価格に対して何千万円も価格が上がっているものは注意した方がいいかもしれない。中古でも特にリノベーション物件は、自身で何度も内見した上で価格に対する感覚を養うことをおすすめする。

税金面で恩恵を受けるには、平米数に注意

「意外と見落としがち」として後藤さんが指摘するのが「住宅ローン減税」。

「消費税が課税される新築物件と買取再販業者によるリノベーション済み中古物件は、年末のローン残高の0.7%を所得税から最大13年間控除されます(※)。注意すべきは対象となる床面積の平米数です。令和4年度の税制改正で、新築は対象が登記面積で40㎡以上に引き下げられたのに対し、中古物件は50㎡以上のまま。例えば購入したリノベーション済み物件が、壁芯面積で51㎡あったとしても、登記面積が48㎡だった場合、住宅ローン減税を受けることはできません。リノベーション済み物件の場合、専有部分は一見新築のようにきれいなものも多いですが、中古物件である点に気をつけてください」

※一般個人の売主から購入する中古物件の場合は消費税がかからないため最大10年

(2023年5月30日掲載)

お話を聞いたのは●後藤一仁さん

ごとう・かずひと/不動産コンサルタント、株式会社フェスタコーポレーション代表取締役社長。1965年神奈川県生まれ。大手不動産会社のハウジングアドバイザー、東証一部上場企業連結不動産会社の取締役を経て、2002年に株式会社フェスタコーポレーションを立ち上げ、代表取締役に就任。「不動産を通じて、世の中の一人でも多くの人を幸せにすること」をミッションに掲げ、専門家として、テレビ、雑誌、書籍、ウェブなどあらゆるメディアで活躍中。主な著書に『マンションを買うなら60㎡にしなさい』(ダイヤモンド社)、『東京で家を買うなら』(自由国民社)。
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