静岡の宝物

700年以上前に作られた伝統工芸品を生活雑貨に――味わい深く上品な静岡県掛川市の「葛布」

静岡県掛川市で700年以上続く工芸品、葛布(くずふ、静岡の方言では「かっぷ」)。鎌倉時代から献上品として重宝されてきた工芸品ですが、現代において伝統を受け継いでいるのはたった2社のみ。大切に手織りされたからこそ表現されるやさしい風合いは、使うほど上品な表情を見せる――。そんな葛布の魅力を、織元である小崎葛布工芸の小崎隆志(おざき・たかし)社長に教えてもらいました。

目次

雑草である「葛」が生み出す、一級品の光沢

(写真)小崎葛布工芸の内観。200種類近い葛布商品が整然と並んでいる。

――「葛布」というものは、どのようなものなのでしょうか。

小崎社長 その名の通り、「葛(くず)」という植物から作られた布です。最近では、根からでんぷんを抽出した葛湯や漢方薬の葛根湯、葛きりや葛餅などが食べ物として親しまれていますね。葛布は根の部分ではなく蔓(つる)の表皮と芯の間にある繊維を取り出し、横糸として織り込んで布に仕上げていきます。700年以上前の鎌倉時代には重用されていたという記録があり、沖縄に伝わる「芭蕉布(ばしょうふ)」、東北の「科布(しなふ)」とあわせて日本三大古布と呼ばれています。

――歴史がある伝統的な布なのですね。それだけ長く愛されてきた葛布にはどのような特徴があるのでしょうか。

小崎社長 布が丈夫なうえに、使えば使うほど色味や手触りが味わい深くなるのが特徴です。仕上げたばかりのものは生成り(きなり)色ですが、30年も使っていると、あめ色に変わっていきます。実は葛は雑草なのですが、そこから取り出す繊維は絹のような光沢があり、驚くほど美しい。織りあげた葛布はきらりと輝き、年月を重ねるほど艶が増していきます。

――素敵ですね。織られた葛布は、最終的にどのように使われているのですか?

小崎社長 古くはふすまや袴、蹴鞠などに用いられておりましたが、時代に合わせて商品の形を変えて今日に至ります。50年ほど前からは「すだれ」に仕立ててアメリカへ輸出し大変好評いただいていました。現在は国内のみのご注文を受け付けています。その他、バッグから小物入れ、うちわや扇子などの生活雑貨を200種類ほど制作して店頭に並べています。

――とても種類が豊富なのですね。商品を考案するデザイン担当者はいるのでしょうか?

小崎社長 特定の担当者がいるわけではありません。日々お店に来てくれる人たちの意見を聞いていくうちにアイデアが生まれ、それを形にしています。気が付いたら、これほどのバラエティに富んだラインナップが揃っていました。

葛布を草木染した色とりどりの生活雑貨やバッグなど商品の種類は豊富。落ち着いた色味のものから、ツートンでカラフルなものまで心躍るカラーバリエーション。/(上)小銭入れ 2,420円、(右下)バッグ[No.635] 27,500円、(左下)メガネケース 5,500円

トレンドではなく、使い続けてもらえる商品づくりを追い求めて

――葛布製品をつくるうえで大切にしている想いはありますか?

小崎社長 トレンド感を意識するよりも、いかに日常的に使ってもらえるかということを大切にしています。最近だと葛布製のマスクケースやスマホケースを作っています。年齢や性別に関係なく求められるものとして必然的に商品化しました。

――今の時代に合ったものを作られているのですね。

小崎社長 そうですね。製品を生み出す際に「若い方たちが使っているもの」から着想を得るようなことは、あまりありません。長く使い続けていただきたいので、日常生活に寄り添えるものを作りたいと考えています。何年も使える素材だからこそ、普遍的なものを目指しています。

――今後の商品づくりの展望を教えてください。

小崎社長 葛“布”とは違うものになりますが、4年ほど前に葛の草を粉砕して作る紙を開発しました。葛の草が混ざることで和紙のような風合いになり、とても上品。現在では大手IT企業や静岡の商社や電力会社、掛川市役所などが名刺として活用してくれています。今後は便箋など商品の幅を広げていけたら。

――“布”だけでなく“紙”まで取り扱っているのですね。

小崎社長 枠にとらわれずに、伝統工芸を盛り上げたいという想いではじめました。今では、プラスチックの代わりに葛を使用することで環境に配慮した紙づくりをし、SDGsへの貢献も意識しています。

(上)店の入り口には葛布製ののれんが掛かる。手前にあるのは今夏発売の日傘。葛布でできた傘地の一面一面がそれぞれ8時間ほどかけて織られている。よく見るとわずかに色味が違うのも、手織りならでは。/日傘 45,000円 (下)葛から作られた紙。陽にかざすと繊維のような模様が浮かび上がり和紙を連想させる。厚みもあり、名刺として活用される。

織り手の気分が手触りに影響する、だから面白い

(写真)小崎隆志社長(左)と、織り手の山下しかさん(右)。今年86歳のしかさんは、小崎社長が子どもの頃から働いているという大ベテラン。

――葛布はどのように織られているのですか?

小崎社長 織機を使い、すべて織り手による手作業で織られています。編み方の加減で、仕上がった葛布の手触りはまったく変わります。職人の人柄が反映されるのはもちろんですが、たとえば朝に喧嘩してから出勤した人が織った布なんかは、自然に力が入ってしまい固めに仕上がります(笑)。それも、葛布の“味”なんです。だから、並べられている商品を手に取り、お気に入りの手触りのものを見つけて選んでいただきたいなと思っています。

――色や形だけでなく、質感でも選べる楽しみがあるのは、とても素敵ですね。現在、織り手は何人くらいいるのですか?

小崎社長 弊社には現在10名の織り手が在籍していて、年齢層は40代から90代にわたります。現存する織元は、うちとあともう一社しかありません。葛布の伝統がこの先も続いていくためには、皆さんにもっと知っていただく努力が必要。だから、定期的に体験教室を開催しています。蔓を取って繊維を取り出すところからはじまり布を織りあげるまでのすべての作業工程を実際に行い、最後は小さなテーブルクロスを作ってお持ち帰りいただくという内容です。

――楽しそう! 葛布をより身近に感じられるイベントですね。

小崎社長 やはり、葛布そのものの魅力は実際に触れてみないと伝わりづらい。商品は、静岡県内のごく一部の土産屋などで販売されていますが、圧倒的にたくさんの葛布商品をそろえているのはうちのお店だけです。小崎葛布工芸は富士山静岡空港から車で30分とアクセスも良い。掛川城がお店から見えるほど近く、観光にもぴったりの場所にあります。一階の販売店のほか、二階の工場では実際に葛布を織っているところを見学できるので、新型コロナウイルスが落ち着いたら、一度遊びにきてもらえると嬉しいですね。

(撮影=クロダユキ、文=半澤則吉)

小崎葛布工芸

静岡県掛川市城下3-4
0537-24-2222
営業時間/9:00~17:00(平日)、10:00~17:00(土、日、祝日)
定休日/火曜日
富士山静岡空港から車で約30分
http://ozaki-kuzufu.jp/

  • 新型コロナウイルス感染拡大により、営業時間・定休日が記載と異なる場合がございます。詳しくは店舗にご確認ください。

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