北海道の宝物

十勝の空に魅せられたパイロットが案内する、一生モノの「気球フライト体験」

気球遊覧は北海道でトライできる究極のアクティビティ。3,600平方kmの面積を誇る十勝平野で係留されていない熱気球に乗り、広い空を旅する。鳥の視点から目にする雄大な絶景と「空に浮かんでいる」という不思議な感覚は、一生忘れられない体験になるはずだ。帯広市の北にある鹿追町(しかおいちょう)を拠点に熱気球運行会社Hot air(ほっとえあ)を運営する、この道30年のパイロット・小田切光(おたぎり・ひかる)さんに上空を案内してもらった(2021年10月取材)。

目次

まるでおとぎ話のように、気球で空を飛ぶ――
こんな体験は、十勝でしかできない

アクティビティ天国の北海道でもカヌーや乗馬などに比べると、気球を体験できるところはごくわずか。イベント会場などでよく見るような上下するだけのフライトではなく、風まかせに空を飛ぶの“フリーフライト”ともなれば、なおさらだ。現在、Hot airでは、家族や夫婦、グループでの貸し切りフリーフライトの体験が可能だ。風のコンディションが最も良い早朝、鹿追町の「道の駅うりまく」の駐車場に集合すると、パイロットの小田切さんは車で離陸する場所まで連れて行ってくれる。

「安全のため風速毎秒3メートル以下の日しか運行できないので、予定どおり実施できる確率は60%ぐらい。前日はもちろん、フライト時間ギリギリまで気象情報をチェックし、それによって離陸する場所を決めています。少し離れたところに雨雲があるだけでも、風向きは変わってくるので、それを読むのが僕たちの仕事ですね」と小田切さん。

運良く天気に恵まれた日、プロパンガスを燃焼させ巨大なバルーンをふくらませていく段階から参加し、いざ熱気球のバスケットに乗り込むと、怖いという感覚もないほど自然に気球は上昇し、地面を離れていく。ぐんぐん上がっていけば、空と自分を隔てるものは何もない。このフライトで飛行するのは地上30メートルほどの高さから、最高で500メートルまで上昇することも。空から十勝平野を360度ぐるりと見渡すと、西には日高山脈が連なり、北には大雪山系の峰々が望める。この上空からでしか見ることができない、北海道・十勝の情景だ。

「ベストシーズンは秋から冬。夏の大地はグリーン一色ですが、秋にはこうして畑のパッチワークが見られます。空気も澄んできますね。そして、冬は平野に雪が積もった白銀の世界。葉を落とした木は黒く、空は真っ青で、コントラストが強くてきれいですよ」。

取材時、気球は音更川の西側から東側へと渡っていき、上空からは景色だけでなく、ハクチョウの群れや河原を走るキタキツネも見ることができた。高い飛行技術を持つ小田切さんだから、川の近くまで降下したり、樹木すれすれの高さを飛んだりすることもできる。

「気球は横移動をコントロールすることはできません。ガスバーナーで浮力を調整して上がり下がりし、どの高さにどちら方向の風が吹いているかを読みながら、着陸地点に向けて移動します。風まかせで自然に身を委ねるしかないときもあるし、不自由ではあるけれど、それが風を切って飛ぶ飛行機とは違う気球の面白さですね」。

貸し切りフライトは、事前準備の時間などを除けば、純粋に飛んでいる時間は30分ほど。しかし、その30分がきっと人生においては長く忘れられない体験となる。

(上)地上で気球を膨らませるところから、参加者は小田切さんと一緒に行う。バルーンがどんどん大きく広がっていくにつれ、大空の旅へ期待も膨らんでいく。
(下)気球は、最高で地上300メートルもの高さを飛ぶ。360度のパノラマで広がる絶景を全身で感じられる、極上の時間だ。「風に乗る、つまり風と同じ速度で気球は動いているため大きく揺れたりすることはありません」(小田切さん)。おだやかに情景を味わう時間が続く。

大学時代に気球の魅力にとりつかれ、
北海道に移住して夢を追った

小田切さんは茨城県日立市で生まれ育ち、東京の大学に入って熱気球サークルの存在を知った。「気球って乗れるものなんだ」と衝撃を受けて加入。風を読んで空を移動するという競技にたちまち魅せられた。サークルの仲間たちと資金を出し合って気球を飛ばす生活を続けていたが、いったん就職してから「気球を真剣にやってみたい」と改めて思い、27歳で十勝地方に移住してきたのだという。ここは「北海道バルーンフェスティバル」なども行われる上士幌町にも近く、何よりフリーフライトに必要な広い平野がある。

「北海道は家賃がタダ同然で物価も安く、仕事も上下するタイプの気球の雇われパイロットや農作業など、いくらでもありました。一緒に引っ越してきた妻と共にいろんな仕事をして資金を貯め、自分たちの気球を買いました。当時は今と違って、会社の経営者でもない個人で気球を所有している人なんていなくて、周囲からは止められましたが、“マイ気球”が手に入ったときはうれしかったですね」。

それから気球の競技大会に出場を重ね、優勝したことも。熱気球世界チャンピオンを目指し、それは果たせなかったが、アメリカに自分の気球を持ち込み、半年間、全米の大会を渡り歩くという海外生活も体験した。

「海外のコンペティションでは上位に入るとそれなりの賞金が出るので、滞在費は稼げました。ただ、アメリカでずっと暮らすとなると、やはりハードルが高い。それで20年前に北海道に戻り、気球運行のサービスを始めたわけです」。

空の仕事にプレッシャーはつきもの
それでも、特別な体験を提供したい

この20年、小田切さんは気球で観光業の一端を担い、テレビ番組などの撮影のためにも気球を飛ばしてきた。好きなことを仕事にした幸運な人と思われがちだが、リスクのある事業ゆえ、常に安全対策は怠らない。

「お客さんを楽しませるのが仕事なので、自分が楽しんでいるわけではないんですよね。やはり命を預かるわけですから、フライトプランを安全なものにするためには最大限の努力をしています。フライト経験3000回を超えた今でも、年に何度か不安になって眠れない夜もある。むしろ、やればやるほど自然を相手にする仕事の難しさを痛感しますし、決して自分はベテランだと過信してはいけないと思っています」。

気球は機械で操縦できる乗り物ではないので、特に着陸が難しく、パイロットの秒単位の判断が必要になる。この仕事を続ける以上、プレッシャーとは無縁になれない。それでも、「上空でプロポーズしたいので」「人生の最後の思い出に」とフライトを熱望する人がいれば、期待に応えたいと思う。

「そもそも僕は他人にはできないことを仕事にしようと思って北海道に来たわけです。この十勝で気球を飛ばしお客さんを楽しませることにかけては、自分が世界チャンピオンだと思っていますから」

北の大地に根を下ろした小田切さんは、ここを訪れる人に自分がかつて気球に出会ったときと同じ感動を味わってほしいと願っている。

「気球に乗るのは目に見えない風になったということ。“自然の一部になる”というなかなかできない体験に価値を見出してくれればいいなと思います」。

(上)バルーン内に吹き付ける火加減を強弱させることで、気球を上下させる。「気球を高く上げたいときは、火を強くします。しかし、すぐに上昇できるわけではないので、風を読み、いつ火力を強めるべきかを判断します。この火力調整が、我々パイロットの腕の見せ所です」と小田切さん。
(下)空の旅が終わったら、自家製マドレーヌとともにティータイムを楽しめる。空の旅の余韻を噛みしめる、贅沢なひとときだ。
(撮影=本田匡、文=小田慶子)

Hot air(ほっとえあ)

北海道河東郡鹿追町鹿追北4-3
TEL/0156-66-3535
開催期間/8~3月(4~7月は原則運休)
電話受付時間/9:00~17:00
定休日/不定休
アクセス/とかち帯広空港から車で約1時間
HP/https://www.hotair-h.com/
 
料金:貸し切りフライト3名(合計体重200kg以内)まで54,000円/
4名まで(合計体重300kg以内)68,000円/
5名まで(合計体重350kg以内)80,000円(すべて税込み)
予約の受付開始は2ヶ月前の月の1日から

  • 新型コロナウイルスの感染拡大により、フライトの開催期間などが記載と異なる場合がございます。詳しくは直接、お問い合わせください。


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