老後のお金に困らない!60代からの住まい選び

60代以降の住まい方のイメージを持っているだろうか。正解があるわけではないだけに、決断がむずかしい問題でもある。介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんは「定年や子の独立などライフスタイルが大きく変わるタイミングであり、自分はどうしたいか、どうするのかを考えておくことが望ましい」と語ります。

住み替え希望が4割超

シニア期における住み替えに関する意識についての調査結果がある。60~64歳では「住み替え意識がある」「状況次第で将来的には検討したい」の合計が4割を超える(「令和6年版高齢社会白書」内閣府)。

住み替え意向を持つようになった理由は「自身の住宅が住みづらいと感じるようになったから」「健康・体力面で不安を感じるようになったから」と回答した割合が高い。

郊外か、都市部か

老後に住み替える場合、大きく「郊外に住み替える」パターンと、「都市部に住み替える」パターンに分かれるだろう。

郊外の自然豊かな環境の戸建てであれば、専用の庭や車庫を確保でき、土地は一定の資産価値を保つ。自給自足に近い暮らしに憧れを抱く声を聞くこともある。しかし、駅から距離があることが多く、公共交通機関は使い勝手が悪く、頼りのバス便も都市部と比べると本数が少なく、運行時間も短いことが一般的だ。

他方、利便性重視で駅近のマンションへの住み替えを検討する声も多い。徒歩圏内に病院、スーパーマーケットなどがあれば日常生活がスムーズに進む。マンションはワンフロアなので、バリアフリーで掃除やメンテナンスも楽。鍵1つで出かけることができる。最近は物騒な強盗事件も多く、セキュリティの整ったマンションの方が安心ともいえるだろう。

多くのマンションは、自分のペースでゴミを捨てることができるのも利点だ。先日も、マンションから戸建てに移った60代の女性から、「ゴミ出しが面倒」との不満を聞いた。慣れていないと、決められた曜日、時間に出すのは大きなストレスになるようだ。

もちろん、マンション住まいもメリットばかりではない。築年数が古くなるにつれて、管理費・修繕積立金が上がっていくこともある。上階の足音などが気になることもあるかもしれない。

住宅ローンを組む場合のリスク

いずれにしろ、マネープランも含め具体的な検討が必要だ。60歳を過ぎての購入となれば、希望通りの住宅ローンが組めない場合がある。70歳くらいまではローンの申し込みは可能なケースが多いが、定年退職後は審査が厳しくなる。借入時の年齢だけでなく、完済時の年齢が審査において重要となる。

病気や介護で返済できなくなるリスクもあるだろう。70歳くらいまでは「働こう」と想定していても、実際にはいつまで働けるかもわからない。ゆとりのない資金計画を立てていると、一機に生活が厳しくなってしまう。

終の棲家になるとは限らない

女性の半数、男性の1/4が90歳まで生きる時代だ。100歳まで生きることも十分考えられる。

今は元気でも、この先のことはわからない。介護保険の要介護認定を受けている人の割合は、加齢とともに急速に高まり、80~84歳では26.0%、85歳以上では59.5%となっている。

そう考えると、次の住み替え先が終の棲家になるとは限らない。

高齢者施設へ入居する場合に、費用の捻出のために自宅を売却するケースは多い。現金化しなければ施設に入れないのだ。入居費は貯蓄で賄えたとしても、マンションの場合は、管理費などの支払い回避のために売却をするケースも目立つ。

シニア期は安定した時期のように考えがちだが、案外波乱のある時期といえるのかもしれない。自分は元気でも、配偶者が健康を害すこともあるだろう。60代でも90代超の親が健在な場合も増えている。介護のために親との同居を検討したり、はたまた自身が子から「育児を手伝ってほしい。一緒に暮らそう」「近所で暮らそう」との提案を受けたりすることもある。

年齢が上がると資金面以外の課題も浮上

柔軟に対応するためには、売却しやすい物件が望ましい。環境の良いエリアで、駅近、周辺にスーパーマーケットやコンビニがあり、管理体制が整っていることも重要な条件である。これらを備えた物件であれば、将来的に売却するかはともかく、シニア期に入る自分自身が暮らす場としても安心、快適なのではないだろうか。

ちなみに、冒頭の住み替え意識の調査では、住み替えを希望してもできていない理由についても聞いている。「資金が不足しているから」がトップだが、年代が上がるほど、「健康・体力面で不安を感じるから」「近くの病院・施設等に通院・通所しているから」「友人・知人等と疎遠になるから」と回答した割合が高くなる。このあたりについても、よく考えたうえで、老後の生活設計を立てる必要がある。

  • 本記事の内容は2025年1月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。

お話を聞いたのは●太田差惠子さん

おおた・さえこ/介護・暮らしジャーナリスト。AFP(ファイナンシャルプランナー)。1993年頃より老親介護の問題を取材している。96年「離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」を立ち上げ、現在、理事長を務める。ファイナンシャル・プランナーの資格も持つ。主な著書に『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)、『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本』(翔泳社)など多数。
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