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脳科学者が教える!パフォーマンスを上げる「脳活メシ」

人生100年時代といわれる昨今、身体はもちろん、健康な脳を維持することが重視されている。脳科学者の瀧靖之さんは、資格試験や大切なプレゼンなど、集中力が必要なときにベストなパフォーマンスを発揮できる食事の仕方があると語る。

食べる順番を意識すべし

人間の脳にはさまざまな働きがありますが、考える・判断する・記憶するといった働きは「高次認知機能」と呼ばれています。個人差は大きいものの、脳は20代後半をピークにだんだん萎縮し、それに伴って、高次認知機能もゆっくりと衰えていくことがわかっています。そのため、年を重ねるにつれて「最近忘れっぽくなったな」「人の名前が出てこないな」と感じるのは、誰にでもあり得ることなのです。つまり、同世代が一般的に持っている程度の高次認知機能が保たれていれば、「脳は健康な状態である」と考えることができるでしょう。

脳の健康を維持するためには、運動や睡眠、会話、趣味などを行うことが効果的とされています。それに加えて、重視すべきなのが食事です。カギとなるのは、血糖値です。砂糖が多く含まれるジュースやお菓子、炭水化物といった、消化吸収しやすい糖質が含まれたものを食べると、急激に血糖値が上昇した後に下降します。この血糖値の乱高下は、集中力の低下や眠気、イライラの原因となります。また、動脈硬化が進行し、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす要因になることも。脳梗塞のような脳の血管障害は認知症につながる可能性もあり、身体的にはもちろん、脳にとっても、できるだけ血糖値の乱高下を防ぐ食事を心がけることが大切だといわれています。

血糖値の乱高下は、食べる順番を意識することでコントロールすることができます。最初に野菜などの食物繊維を食べて、ある程度の満腹感を満たす。その後に肉や魚などのたんぱく質、最後に炭水化物やデザートを食べる。この順番で食事をすることで、糖質の吸収が抑えられ、血糖値の変動を緩やかにすることができるのです。そういう意味では、フランス料理は理にかなっているといえるでしょう。「甘いものや炭水化物を食べてはいけない」というわけでなく、食べる順番とカロリーを意識しつつ、バランス良く、いろいろなものを食べるようにすることが大切なのです。

脳の働きを高める「ブレインフード」

バランスのとれた食事が大前提として、その中に取り入れることで、脳の働きを高める効果が期待できるといわれている「ブレインフード」をいくつか紹介したいと思います。

●青魚

サバやイワシ、サンマなどの青魚には、記憶力を高める上で有用とされているオメガ3系脂肪酸が多く含まれています。

●貝類

カキやホタテなどの貝類からは、神経が働くために必要な栄養素である亜鉛を摂取することができます。

●ナッツ類

アーモンドや落花生、くるみといったナッツ類は、脳の老化防止や脳の働きを維持する効果があるとされる、ビタミンEが豊富に含まれています。

●オリーブオイル

ビタミンEのほか、ポリフェノールの一種であるオレオカンタールという認知症予防の効果が期待されている成分が含まれています。

●卵

卵には記憶力の維持に効果があるとされるコリンや、神経の処理速度を高めるゼアキサンチンをはじめ、脳の健康維持に役立つ栄養素が豊富です。さらに、卵黄にはオメガ3系脂肪酸、そして情報伝達に必要なリン脂質が多く含まれています。


和食は魚介類や野菜、果物が中心になっているので、効率良くブレインフードを取り入れることができるでしょう。また、イタリア料理やスペイン料理といった地中海食は、魚介類や野菜、果物に加えて、ナッツ類やオリーブオイル、全粒穀物が用いられており、脳も含めて健康に良い食事として注目されています。

最近では、腸内細菌叢も脳に影響を与えているといわれています。腸内細菌叢とは、腸内に生息する細菌群のこと。この腸内細菌叢の種類を豊かにしたり、善玉の細菌を増やすことで腸内環境が整っていき、認知症のリスクを減らせる可能性が指摘されているのです。腸内環境を整えるには、原材料から形が大きく変わっているジュースやハンバーガーなどの加工食品よりも、米や野菜、魚といったなるべく加工度の低い食品の方が効果的とされています。なるべく加工されていない食品をメインにとることも、意識してみると良いでしょう。

ただ、食事は人間にとって、幸せを呼び込む人生のイベントの一つでもあります。「ブレインフードを絶対に取り入れなくては」「ハンバーガーのセットはバランスが悪いから食べないようにしよう」などと、がんじがらめになる必要はないと思います。ときどき、そして適度な量であれば、好きなものを食べても良いと思います。むしろ、70〜80代と高齢になってくると、筋力を維持するためにも、食べたいものをしっかりと食べる方が大事になってくるでしょう。身体がしっかりしていれば、外に出て運動や会話ができ、結果的に脳の健康維持につながるからです。

資格試験やプレゼン…集中力が必要なときは

ここまで、脳の健康と食事という観点から説明してきましたが、集中力が必要なときの食事についてもお話したいと思います。

資格試験や大切なプレゼンなど、集中力が必要な場面ではエネルギーが必要になるため、脳を活動させるために一番効率的なエネルギーである糖質、つまり甘いものが食べたくなることが多いです。しかし先ほど説明したように、お菓子などの甘いものは、急激に血糖値が乱高下する食べ物。血糖値が上昇する際は多幸感が得られるのですが、下降すると疲れやだるさ、眠気に襲われてしまいます。なので、ベストなパフォーマンスを発揮したいときこそ、まず野菜、次にタンパク質、それから炭水化物を食べるという、血糖値の変動が穏やかになる食事を心がけてみてください。

集中したいときは、コーヒーなどのカフェインをとる人も多いのではないでしょうか。最近の研究によると、カフェインには覚醒効果があるといわれており、眠気のあるときや気分を切り替えたいときに摂取するのは良いかもしれません。一方で、覚醒効果は数時間続くため、午後の遅い時間にカフェインをとると、睡眠の質が下がることも指摘されています。人間の記憶が定着するのは寝ているときとされていますから、いくらカフェインをとって深夜まで頑張って勉強しても、逆効果となっているかもしれません。睡眠不足は、認知症のリスクを高めるともいわれています。カフェインは1日2杯を目安にし、摂取する時間はなるべく遅くならないようにすると良いでしょう。


お話を聞いたのは●瀧 靖之さん

たき・やすゆき/東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター副センター長、東北大学加齢医学研究所教授、医師、医学博士。東北大学加齢医学研究所及び東北メディカル・メガバンク機構で脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達や加齢のメカニズムの研究を行う。これまでに読影や解析をした脳MRIは、のべ16万人以上。著書に10万部を突破するベストセラーとなっている『生涯健康脳』(ソレイユ出版)、『賢い子に育てる究極のコツ』(文響社)など多数。NHK「NHKスペシャル」「あさイチ」など、メディアにも多く出演している。東北大学発スタートアップ 株式会社CogSmart代表取締役を務める。

http://www.nmr.idac.tohoku.ac.jp/