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目的に合わせて摂りたい!正しいプロテインの活用法

筋肉増強やダイエットなど、目指す体づくりのためにプロテインを活用する人が増えている。たんぱく質を効率よく摂取できるプロテインだが、選ぶ種類や摂取の仕方に迷うことも。目的に応じたプロテインの摂り方について、元ボディビルダーで、現在は大学教授として食品の健康機能に関する研究をしている御堂直樹さんが語る。

不足しがちなたんぱく質を効率的に補う

日本で流通しているプロテイン(たんぱく質を表す英語)は、その名の通り、たんぱく質を補給できる栄養補助食品。一般には水などに溶かして飲む、粉末状のものを指すことが多いでしょう。筋肉や臓器、骨、皮膚、髪や爪など体づくりに欠かせないたんぱく質は、代謝を司る酵素やホルモン、免疫物質などさまざまな機能をも担う重要な成分です。

1日に摂取するたんぱく質推奨量としては、一般の方の場合、男女ともに体重1kgあたり1.0g程度といわれています。一方、筋肉を鍛えている方の場合、測定誤差や個人差があるため1.0~2.2g、またその中央値を1.6gとする研究結果があります。そのため、最大の2.2gを目指すという考え方もありますが、私は体を酷使しているボディビルダーやアスリートなどでなければ1.6gを目指せばよいと考えています。これで体に求める変化が見られなければ増やしたり減らしたりすればよいのです。

肉や魚、卵、大豆製品などに多く含まれるたんぱく質。本来なら普段の食事で満たせるのが理想的ですが、たんぱく質は炭水化物や脂質よりも不足しがち。特に朝は何も食べない人や、パンやコーヒーといった簡単な食事で済ませる人が多いですよね。そういった場合にプロテインを取り入れることで、1日に必要なたんぱく質量を満たしやすいでしょう。

重要なのは“ゴールデンタイム”よりも1日トータルの摂取量

トレーニングを行っている人なら、プロテインを摂取するのは“ゴールデンタイム”と意識している人も多いのではないでしょうか。運動直後がたんぱく質を吸収しやすいタイミングとしたものですが、筋肉増強との関係は明確ではなく、1日トータルの摂取量の方が重要とする結果が最近の研究により報告されています。

運動中は内臓ではなく筋肉に血流が集中するため、運動中に食品を摂取しても体内で消化しにくい状態になっています。運動直前や直後の摂取も、これとほぼ同じ状態になるため、運動直後のプロテインの摂取にはあまり効果はありません。少なくとも運動後30分は時間をあけて摂取した方がよいと思います。

さらに、1回の食事で摂るたんぱく質量がおよそ20~30gの場合に、筋肉増強効果が効率的に起こることが報告されています。つまり、一度にたくさん摂取しても、結局吸収できる量には限りがあるということです。

そのため、朝・昼・晩と1日3食の食事でまんべんなくたんぱく質を摂り、1日トータルの摂取量として必要量を満たすことが重要です。そのためには、間食にプロテインを摂るのもおすすめです。

自分に合ったプロテインとは?目的別の種類と摂り方

プロテインは主に、乳を原料とする動物性の「ホエイプロテイン」「カゼインプロテイン」と、大豆を原料とする植物性の「ソイプロテイン」の3種類に分けられます。一般的には、消化・吸収が速いホエイプロテインは運動や筋トレの後に、吸収が緩やかなカゼインプロテインは就寝前に、また脂質代謝をよくするソイプロインはダイエット時に摂るのが効果的といわれています。

しかし実際には、プロテインの種類による筋肉増強効果は変わらないとする複数のデータがあります。また、信頼性の高い研究においてソイプロテインの体重減少への効果は極めて限定的です。さらにその日、プロテイン以外に摂取した栄養成分の影響があることなどから、私としては種類別での摂取効果にそれほどの違いはないと考えています。

目的に応じたプロテインの効果を感じるためには、以下のようなことを意識してみてください。

【筋肉を増やす】

筋肉を増やしたい方はたんぱく質含有量が多いものを。たんぱく質が不足すると、筋肉の分解が始まります。筋肉に刺激を与える運動量を増やすのももちろんですが、先に述べたように“ゴールデンタイム”にこだわらず、1日の間で体内からたんぱく質を切らすことがないようにしましょう。朝、昼、晩ほか間食などにでもプロテインを組み込むと効果的に摂取できます。

【ダイエットのサポート】

ダイエットではエネルギー摂取量を減らしつつ、たんぱく質を維持またはやや増やす必要があります。そのため、糖質の低いプロテインを選びましょう。手軽なバータイプのものはたんぱく質だけでなく炭水化物や脂質が含まれており、カロリーも高めなので、利用する時はそれも計算に入れることをお忘れなく。また、食事をプロテインだけに置き換えるのは、健康的なダイエットとはいえません。食事量を抑えながらも栄養バランスは大切に。運動を取り入れながらプロテインを有効に使えば、リバウンドしにくい体づくりができます。

【栄養不足の解消】

逆に太りたい方や、食が細くなった高齢者が栄養補給のためにたんぱく質を摂取したい場合もプロテインは有効です。肉や魚と違い、液体として飲むことができるので、あまり食べられない人でも無理なく摂り入れられます。

【更年期症状の緩和】

先にプロテインの種類別での摂取効果にそれほどの違いはないと述べましたが、ソイプロテインは閉経後の女性によく見られる不調を軽減できる可能性があります。ソイプロテインに含まれるイソフラボンは女性ホルモンのエストロゲンと似た働きをするため、エストロゲン減少により起こるホットフラッシュなどの更年期症状が気になる場合はソイプロテインを選ぶと良いのではないでしょうか。

粉末の場合、水などに溶かして飲むことが多いプロテイン。よく「加熱しない方がいいのか」と聞かれますが、焦げるような極端な高温など、特殊な条件でなければ、たんぱく質の変性(立体構造の変化)が起きるだけで、その構成成分のアミノ酸が壊れるわけではありません。見た目が変わることもありますが、たんぱく質としての効果に大きな違いはないので、好きな摂り方で構いません。変性した方が消化されやすいと言われるくらいです。ほかにも、ヨーグルトなどに混ぜることも特に問題はありません。実際に私は毎朝プロテインをヨーグルトに加えて食べています。

摂り過ぎによるデメリットは…?

プロテインは手軽に摂取できるメリットがありますが、中には毎日継続して摂取することで「体への負担はないか」と不安を感じる方がいるかもしれません。よく聞くのは腎機能への影響ですが、基礎疾患を持たない健康な人であればそれほど心配はないと考えています。

たしかにプロテインを過剰に摂取すると余分な代謝を行う必要が生じるので、腎臓や肝臓の働きは増え、体に負担がかかる可能性があります。またカルシウム排出も促進され、骨粗しょう症や尿管結石を引き起こす可能性もあるといわれています。

しかし確実な根拠がないため、因果関係があるとは言い切れません。ある研究では『健康な人であればエネルギー摂取量の35%程度のたんぱく質なら影響はない』との結果も出ています。常識的な範囲の摂取であれば、プロテインによるたんぱく質の摂り過ぎは気にしなくていいでしょう。

それよりも、プロテインの過剰摂取によるカロリー過多の方が心配です。プロテインはつい普段の食事量に加えて摂取してしまいがち。たんぱく質は炭水化物や脂質に比べ体脂肪にはなりにくいものの、必要量に見合った量でなければ食べ過ぎと同じで、摂る意味がありません。

炭水化物が多い日には追加、肉や魚を多く摂った日には控えるなど、食事の栄養バランスを見ながら調整するのが理想的なプロテインとの付き合い方ではないでしょうか。

今やプロテイン商品の種類は豊富。フレーバーの違いや、ビタミンやミネラルが添加されているものなど多彩ですが、気にすべきはプロテイン含有量で、それ以外は、好みで選んでも特に問題はないと思います。目的に合わせてうまく活用すれば、自身の理想とする体づくりにより一歩近づくことができるでしょう。


お話を聞いたのは●御堂直樹さん

みどう・なおき/東京医療保健大学医療保健学部 医療栄養学科 教授。東北大学博士(農学)、CSCS※(Certified Strength and Conditioning Specialist)。複数の食品メーカーにて商品開発や品質保証に従事。2021年から現職。専門は食品学、食品加工学、食品機能学。2002年にはボディビルディング日本社会人大会優勝経験を持つ。

  • アメリカに本部を置くNSCAが認定する資格であり、安全で効果的なトレーニングプログラムを計画・実行する知識と技能を有する専門職。