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教育ジャーナリストが語る!中学受験を考えたときに知っておきたいこと

首都圏ではおよそ5人に1人が挑戦しているといわれる中学受験。コロナ禍でのオンライン対応がスムーズだった影響もあり、受験者は増加し続けている。中学受験をする意義や親の心構えなど、中学受験に挑戦する上で知っておきたいことについて、教育ジャーナリストのおおたとしまささんが語る。

中学受験は親子で成長するチャンス

塾講師の視点から中学受験を描いた漫画『二月の勝者 ―絶対合格の教室―』(小学館)は、2021年10月にドラマ化されたのでご存じの方もいらっしゃるかもしれません。特に漫画では中学受験の実態がリアルに描かれ、中学受験とは何たるかが広く知られるきっかけになったのではないかと思います。これまで多くの親が、中学受験は単純に合格すれば勝ち、不合格であれば負けと捉えていた節がありました。しかし、中学受験への挑戦は、どんな形であれ子ども、あるいは親子に残るものがあるということをこの漫画が描き出したことによって、結果だけを追い求めるのではなく、中学受験を通して親子で成長することが大切なのだという考え方が広まってきていると感じています。そういう視点で考えると、学校選びに関しても偏差値だけに頼らず、それぞれの家庭が、それぞれの価値観を持って学校を選択するという方向に進んでいる印象があります。
 
最近では、学校側でも変化が起きています。私立中高一貫校が、有名私立大学と個別に提携を結ぶケースが増えてきているのです。教育提携といって、高校時代から提携大学の授業を受けることができ、提携大学に進学すれば高校時代に受けた授業も単位として認められる。あるいは、大学附属校の内部進学に近い形で進学できるなど、大学まで一貫した学びが得られるものとなっています。今後、大学との教育提携は私立中高一貫校の新たなアピールポイントとして打ち出されていくのではないでしょうか。

中学受験をする4つの意義

では、なぜ中学受験をするのか。その意義について、大きく4つに分けて説明していきたいと思います。
 
まず1つ目は、反抗期を高校受験に邪魔されないということです。反抗期を迎える中学3年生頃は、親や先生、あるいは世の中の価値観を疑うことによって自己を形成するという、子どもが大人になるための大切な時期。受験勉強に捉われず、そうした時期を存分に謳歌できる中高一貫校の6年一貫教育は、心の発達にとても良い環境といえるのではないでしょうか。
 
2つ目は、私立中高一貫校だからこそ得られる価値観があるということです。私学には、偉大な創立者が掲げた独自の教育ビジョンが脈々と受け継がれ、文化として学校に定着しています。その中で6年間生活することで、その学校の価値観、ある意味で美学と言えるものが自然と体に染みこんでいくのです。私立中高一貫校での学校生活は、家庭では与えられない、そうした大きな価値観を身につける貴重な機会となるでしょう。
 
3つ目は、基礎学力の向上。中学受験勉強を詰め込みの勉強だと言う人もいますが、中学入試の問題は、暗記だけでなく考える力がないと解くことはできません。理科や社会も、実社会に結びつく学びになっている。世の中に出た時に直接役に立つわけではありませんが、物事を考える上でのベースとなる力になります。
 
4つ目は、親も人間的に成長できるということです。小学生の我が子が必死に努力をしている姿を傍で見ていなければならない。しかも、その努力は必ずしも報われるとは限らない。辛そうにしている姿を見れば、親の力で何とかしてあげたくなることもあるでしょう。でも、そこで自分の感情をコントロールして、この子は自分の力で何とかするしかない、自分の力で何とかできるんだと、子どもを認めることができるようになる。それは親の成長といえるのではないでしょうか。子どもが12歳の時にそうした経験をしていれば、思春期を迎えて親離れしていくタイミングも、比較的安定した精神状態で手を放すことができるでしょう。

結果だけにこだわるのは意味がない

ただ、実際には親が子離れできず、親の人間的成長は実現できていない家庭がまだまだ多いという印象です。親が第一志望校の合格という目の前の目標を何が何でも達成することにとらわれ、子どもを完全に管理してしまう。すると、子どももそうした中学受験システムに過剰適応してしまい、点さえ取れればいいという考えになったり、人と比べることでしか自分を評価できない人間となってしまいます。それは、すごく危険なことだと思います。
 
では、そうならないために、親はどのように中学受験と向き合えばよいのでしょうか。中学受験ではさまざまな試練に直面するでしょう。もしかすると、第一志望校が不合格という結果に終わり、悔しい思いをするかもしれません。そうした時は、この試練から何を学び、いかに次への教訓にできるのかという、人生において大切な考え方を学ぶ絶好のチャンスなのです。
 
受験生活を通して、どれだけ多くの人生の教訓を与えることができるかは、親の腕の見せ所となるでしょう。例えば、子どもがカンニングしてしまったとします。子どもは当然悪いことだとわかっていて、親に怒られたくない、悪い点をとって友達に馬鹿にされたくないなどの理由があってやってしまったはずです。そこで親は叱って終わりにするのではなく、人の目を気にしても意味がないことを教えてあげる。そうすることで、子どもは自分が努力してとった点数であれば恥ずかしくないと思えるようになり、周りの点数を気にすることもなくなるでしょう。カンニングという失敗が教訓となり、成長につながるのです。
 
試練を乗り越えて得た教訓は、中学受験にチャレンジしなければ得られなかったはずです。中学受験を通してそうした経験を積み重ねることで、「チャレンジするっていいな」「チャレンジすること自体に意味があるんだ」と考えることができるようになります。中学受験はそうした子どもの貴重な成長機会だととらえることができれば、合格・不合格の結果だけにこだわるのは意味がないと考えられるのではないでしょうか。

(2023年2月7日公開)

お話を聞いたのは●おおたとしまささん

おおた・としまさ/教育ジャーナリスト。1973年生まれ、東京都出身。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。1997年にリクルートに入社し、雑誌編集に携わる。2005年に独立後、いい学校とは何か、いい教育とは何かをテーマに教育現場のリアルを描き続けている。新聞・雑誌・Webへのコメント掲載、メディア出演、講演など幅広く活動。中高の教員免許を所持し、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての経験もある。『なぜ中学受験するのか?』(光文社)、『勇者たちの中学受験』(大和書房)など著書は70冊以上。
http://toshimasaota.jp/