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声が低い方が高年収!?出世する人の話し方

世界で活躍する企業の社長や大統領など、エリートの話し方には共通点がある。そう指摘するのは、エグゼクティブスピーキングコーチとして活躍する岡本純子さん。海外でトレーニングを積み、現在、企業のトップ層に話し方の指導をする彼女に、リーダーシップを取り、出世しやすい人の特徴と、話し方のコツをうかがった。

いかに相手を飽きさせないで会話できるか

よく「第一印象は見た目が9割」といわれるが、実は4割を「声」が占めていることはご存じだろうか。これはカリフォルニア大学の心理学者・アルバート・メラビアンが行った研究によって明らかになった。彼の提唱する「メラビアンの法則」によると、コミュニケーションの際に人が抱く印象に話す内容(言語情報)が7%、表情やしぐさを含む見た目(視覚情報)は55%、一方で声の大きさや話すスピード、口調が与える印象(聴覚情報)には、38%もの影響を及ぼすという。

「話す内容も重要ですが、声は大きな要素です。コミュニケーションは音楽のようなもの。いかに相手を飽きさせることなく会話できるかが、重要なポイントになります。例えば、同じ音程やスピード、音量で話し続けると、どうしても聞き手は飽きてしまうでしょう。変化をつけながら、いかに惹きつける素敵な音を奏でられるかが、重要な要素です」

これまでよしとされていた「大きな声でゆっくり話す」は、現代においては、必ずしも正解ではない。というのも、YouTubeをはじめとするSNSの普及によって、定速で音を聞かない視聴者が増えたからだ。倍速再生に慣れている相手にとって、ゆっくりした口調は退屈感を招きかねない。今の時代において大切なのは、相手に合わせた適切な話し方。これは仕事、特にリーダーシップを取る際にも同じことがいえる。

「滑舌が悪くて悩む方も少なくありませんが、さほど問題ではありません。アナウンサーのように美しくスムーズに話すことよりも、いかに温かみのある声で相手に訴えかけられるか。個性があってもいいので、しっかりと想いを伝えることの方が大切です」

1年間で2000万円の差!?活躍する“低音リーダー”

会話においては「声の高さ」もキーになる、と岡本さん。

「高い声は親しみやすさや若々しくエネルギッシュな印象を与える一方、低音は重厚感があり、威厳やリーダー感を想起します。与えたいイメージによって、音程を使い分けると効果的です。例えば、プレゼンの始まりは高めの声で聴衆に寄り添いながら興味・関心をひき、キーとなるポイントでは低音で。低くて響く声は説得力が深まり、リーダーシップを取る方に多い傾向があります」

実際に、声の高さが年収に影響するといった結果も発表されている。男性CEO約800人を対象に、アメリカのデューク大学とカリフォルニア大学が行った調査によると、低い声のCEOほど高年収であるという相関関係があることがわかった。彼らは他のCEOと比較して1年間で約2000万円多く稼ぐという。さらに経営する会社の規模も大きく、長期間トップに就いている傾向にある。体格がよくなるにつれ声帯も大きく、声は低くなる。見た目の存在感も、相乗的に効果を発揮するようだ。

「イギリスのサッチャー元首相が、低音を取得するためにボイストレーニングを行ったように、低い声がリーダーシップを取りやすいことは定説にはなっています。しかし、最近の若いベンチャー企業のリーダーを見ると、必ずしもすべてに当てはまるわけではありません。やはりオーディエンスに合わせた使い分けが欠かせないでしょう」

届きやすい声を生み出す、3つのポイント

なかなか個人でボイストレーニングに通うのはハードルが高いもの。そこで自分でできる「いい声の出し方」のコツを伺った。

「声は呼吸そのもの、発声は全身運動です。体をゆるめ、たっぷりと息を吐くことがいい声につながります。時間はかかりますが、3つのポイントを意識するだけでも聴衆に届きやすい声が身につくでしょう」

ポイント

  1. 息を鼻からぐっと吸って、おなかの「水瓶」に空気をためるイメージで膨らませる
  2. 歯みがき粉のチューブを絞るように、おなかをへこませ口から吐き出す
  3. その息とともに、口を大きく開けて発声する

先述したように、低音と高音を戦略的に使い分けることも重要だ。弾いた弦が空洞に共鳴して音を奏でるギターのように「人の体も楽器のようなもの」。“どこで共鳴させるか”をちょっと意識するだけで、声のトーンはぐんと変わるそうだ。

「高い声を出したい時は“頭のてっぺん”に、低い声で重厚感を表現したい場面では“おへそのあたり”に空洞があると想像しながら発声するだけで十分です」

声の出しやすさには、体の動きも少なからず影響する。ある番組の企画で、歌手に手を自由に動かせない状態で歌ってもらったところ、思うように声が出なかったことがあった。ジェスチャーは発声において重要な役割を果たすのだ。「立った状態で、手を使いながら、話す」ことも有用。肺が開き、呼吸と共に声が出しやすいという。

ただ、現在はオンラインでの会議や打ち合わせも多いだろう。小さい画面越しに伝えるのは容易ではないが、その際には「アイコンタクト」に気をつけてほしい。画面の中の相手を見ているつもりでも、下を向いているように見えてしまうと、伝えたいことが十分に発揮できない。カメラの位置を変え、相手から見た時に目が合うよう設定するだけで、心理的な印象はずいぶん変わるものだ。

「残念な話し方」で、正当な評価を受けられないリスクも

「実は話し方で損をしている人も、少なくありません」と岡本さんは指摘する。

まず「“話せばわかってもらえる”、“言わなくても伝わる”ではいけない」とした上で、適切に伝えること、伝えたいという強い意思が重要であることを訴える。以心伝心を過信せず、自分の言葉と態度で理解してもらうことを心がけたい。

また、会話の中でアクセントを語尾に置いていないだろうか?文末の印象が強いと、話す内容が間伸びして、重要なことが伝わりにくい。文節の最初を意識して話すと、聞き手の耳に入りやすいのだそう。

さらに日本語に多い悪い特徴として挙げるのが「ぜい肉のついた言葉」。例えば「~したいと思います」「~できればと考えています」などの語尾は「~します」「~です」で十分伝わる。回りくどい言い回しに必要以上の時間を割いてしまうと、聞き手の集中力を削いでしまいかねない。シンプルに言い切る方が説得力も増すだろう。

「人は潜在的に声や見た目の印象で判断してしまうところがあります。いかに実のある話をしても“印象”がよくなければ耳を傾けてもらえず、共感を得にくいもの。正当な評価を受けられないリスクがあることも見過ごせません」

スキルを持った人が、話し方によって適切な評価を受ける機会を損失してしまうのは非常にもったいないことだ。たかが話し方と考えず、“適切な話し方”を身につけることが、自身の理想的なキャリア形成に影響し、ひいては企業や組織全体に貢献することにつながる。

お話を聞いたのは●岡本純子さん

おかもと・じゅんこ/株式会社グローコム代表取締役社長。早稲田大学政経学部卒業。英ケンブリッジ大学国際関係学修士。米MIT比較メディア学元客員研究員。読売新聞社にて経済部記者、電通パブリックリレーションズにてコンサルタントも経験。これらの経験を活かして、「伝説の家庭教師」と呼ばれるエグゼクティブ・スピーチコーチ&コミュニケーション・ストラテジストとして活動。これまでに話し方の指導をした社長・企業幹部は1000人を超える。著書に『世界最高の話し方』、『世界最高の雑談力』(どちらも、東洋経済新報社)など。
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