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爆速で仕事し、しっかり休む!秘書が見た、エグゼクティブ層のタイムマネジメント

日本に赴任してきたグローバル企業のトップエグゼクティブを秘書として支え、現在は人材育成コンサルタントとして活躍している能町光香さん。彼らと間近で接することで、限られた時間で成果を挙げ続ける秘訣は「タイムマネジメント」にあることを学んだそうです。仕事だけではなく、プライベートも充実させる彼らの時間術に、人生を豊かにするヒントがあります。

短期間で成果を挙げなければ、ポジションを失う

私は秘書として、外資系企業の外国人エグゼクティブを数多く見てきました。彼らはグローバル企業の本社から日本支社の幹部として派遣されてくるわけですから、皆さん、とても有能であることは間違いありません。ただ、その中でもトップクラスの人材となると、あらゆる部分で格の違いを痛感しました。当然、タイムマネジメントについても独特な感性を持っていて、とても器用に仕事の成果へと繋げている印象です。

トップエグゼクティブに共通しているのは、強固なまでの「タイム・イズ・マネー」感覚。彼らは本社から、短期間で成果を達成することを求められています。成果を挙げなければ、すぐにそのポジションを追われてしまうのですから、相当にシビアです。

しかし、だからといって、彼らはギスギスとした雰囲気を周囲に撒き散らすようなことは絶対にしません。むしろ、部下に対してとても気を遣う方が多いです。なぜなら、彼らは自分ひとりだけでは大きな仕事を成し遂げられないことをよく知っているからです。相手が気持ちよく自分のために時間を使ってくれるよう、日ごろからコミュニケーションと配慮を欠かしません。たとえば、仕事量が負担になっていないか、やりづらいことはないか、気軽にひと言、声をかけてくれたりします。何か指摘をするにしても、相手のプライドが傷つかないように心を配ります。

部下を成長させて、自分の時間をつくる

そうした配慮に触れると部下も意気に感じますから「この人のために力を尽くそう」と自然に考えるようになる。結果、仕事がスムーズに進み、短時間でより大きな成果がもたらされるわけです。本当に有能なエグゼクティブは周囲の人間にいい仕事をさせるので、自然と仕事が減り、時間にゆとりができる。そのぶん、時間をかけて熟考しなければならない未来のミッションなど、よりレイヤーの高い取り組みに集中できるようになるのです。

部下に対する目標設定でもユニークさが表れます。一般的には、上司が課題や目標を提示して、部下と面談しながらミッションを決定していくものです。が、私が秘書をしていたあるエグゼクティブは白紙の目標設定シートを示して「what makes you brighten?」とだけ尋ねたんです。要は「自分がいちばん輝くのは、どんな働き方をしているときか」と問うことで、部下の強みを最大限に引き出し、さらに成長させようと考えているわけです。「せっかく一緒に働いているのだから、僕はできるだけサポートするよ」「この組織でやりたいことがあるなら、ぜひ一緒に実現させよう」という姿勢で接してくれるから、上司をリスペクトもするし、この組織で自分は何ができるのか、と真剣に考えるようにもなる。言い換えるなら、お互いを応援しあうような環境作りが上手なんです。

一見、遠回りなようでも、信頼と尊敬に基づいた組織をつくり、それぞれが質の高い仕事をするようになることが、実は成果を挙げる早道であることを知っているのでしょう。

インスピレーションを研ぎ澄ませて、直感を磨く

そうしたエグゼクティブの感性を支えている要素のひとつは、研ぎすまされたインスピレーション。一流の人は、言語化するのが難しいような身体の感覚や、ひらめきのような直感から重要な判断を下して、うまくことを運んでしまう、不思議な力を持っているんです。

秘書時代に面白いことがありました。本社から唐突に、ヘルメット、ハンモック、カヤックといったサバイバル道具が上司宛に届き、「南米アマゾンに集合!」程度の簡単なメモが一枚、添えられていました。一体なんなのか、とても驚いたのですが、実は会社のリスクマネジメント研修だったんです。世界中から200名ほどのエグゼクティブがアマゾンに集まり、そこで4人チームを組まされて、宝捜しゲームみたいな課題解決を1週間ほど行ったと、帰国した上司から聞きました。

ときに経営では即座のリスク対応が求められます。素早く判断を下さなければ、会社が倒れてしまうこともある。そうした能力を、生死が関わるような極限状態で鍛える、という研修だったそうです。彼らはインテリジェンスや処理能力が高いのはもちろんのこと、極限状態での直感も磨いているのですから、時間を無駄にせず、何でも瞬時に判断するといったことが脊髄反射のようにできるようになるのも当然かもしれません。実際に私が見てきた中では、トップに上り詰めるのも、どんな状況でも瞬時に判断ができる能力を持った人たちでした。

インスピレーションの話題と関連するかもしれませんが、海外のエグゼクティブは精神的なものに対して尊敬の念を持っている方が少なくありません。私が秘書時代、彼らからよく尋ねられた日本文化のベスト3は「禅」「宮本武蔵」「ハローキティ」なんです。「座禅会に行きたい」「ムサシのことを教えてくれ」という方は、本当に多かったですね。

あと、彼らの要望で特攻隊の基地があった知覧に社員旅行したこともありました。日本人としては少し引いてしまうところもあるのですが、神風や武士道、禅といった日本的な精神世界への憧憬や敬意を純粋に抱いているんです。人間には深遠な精神世界があり、精神を磨くことで自分の集中力が高まり、それがいい仕事にも繋がる。そんな風に考えている方が多い様子でした。高度な意志決定を任される人だからこそ、感受できる世界観があるのかもしれません。

休暇のアポは、仕事のアポと同じくらい大切

ビジョンを明確にイメージし、それを実現させてしまうのも海外のエグゼクティブならではの特徴です。たとえば激務に追われる外資系の金融マンなどは35歳くらいでアーリーリタイヤメントをして、田舎で野菜を作ったりしながらのんびり暮らす、なんてことを具体的にプランし、実行したりします。

よく外国の方から尋ねられたのは「どうして日本人は、定年を迎えてから自分のやりたいことを探すのか」ということ。たとえば60歳で土いじりを始めるより、35歳で始めるほうが、より長く楽しめるし、満足感も違うじゃないか、と。

海外のエグゼクティブの発想は「時間はお金には換えがたい」というもの。どんなにお金があっても、時間がなければ無意味。ならば、いかに短期間で成果を挙げて、お金をつくり、早く自分のやりたいことを始めるかが重要と考えています。その目的を果たすために、効率的に仕事をしているのです。要するに、日本人とは発想の仕方が違うんですね。

これは、休暇の取り方にも通底しています。彼らがよく口にしていたのは「休暇のアポを取るのは、仕事のアポと同じくらい大切」ということ。たとえば、2022年は4週間の夏休みを取ろうと、2021年の年末年始休暇で家族と相談して、早々と日程を決めてしまうんです。そして堂々と「ここからここまで、僕は休む」と予定を組んでしまう。休暇中は仕事から完全に離れるので、電話はもちろん、メールにも一切反応してくれません。この姿勢は自分だけではなく、まわりにも推奨します。「君もちゃんと休まなきゃダメだ」というので、私も3週間ほどお休みをいただいていました。

休暇から戻った彼らを見て、休むことは、本当に大切だなと痛感したものです。仕事のことを一切忘れて、本当にリフレッシュした彼らは、ものすごくクリエイティブ。「こんなことをしたいんだけど、どう思う?」「あの件はこうしよう」とアイデアが湧き出て止まらないんです。脳をカラッポにしたことで、新しいアイデアを生み出すスペースができたのでしょう。何もしないことの重要性を、私たちはもっと意識する必要があるかもしれません。

お話を聞いたのは●能町光香さん

のうまち・みつか/人材育成コンサルタント。上級米国秘書資格(CAP)を取得。秘書としてバンクオブアメリカ・メリルリンチなど、世界の一流企業のトップエグゼクティブたちを支えてきた。その経験から「日本秘書アカデミー」を創設。著書に『なぜ、自分の予定を優先する人は仕事ができないのか』などがある。