ライフデザイン

もう、仕事が溜まらない!東大教授が実践する時間術

東大教授の西成活裕さんは、社会のあらゆる「渋滞」の解消を研究し、多くの企業の業務改善のコンサルティングを行っています。ビジネスだけでなく、家事に追われがちな日々の暮らしにも役立つ時間の使い方を聞きました。

「探す時間」と「待つ時間」は、人生最大の無駄

人間の価値は平均1秒1円として計算されます。つまり渋滞によって目的地への到着が1時間遅れると、3600円の機会の損実が生じることと同じです。現在の日本で、渋滞によって失われる損失は12兆円に及ぶといわれています。

私が専門とする「渋滞学」は、数学や物理の理論を基に、道路交通の渋滞はもちろん、社会にある無数にある渋滞=流れの詰まりを解決し、損失を解消するための研究です。

ビジネスパーソンにとって仕事の渋滞は生産性を低下させる深刻な問題です。時間の使い方が上手でない人は往々にして仕事に詰まりを起こしやすいものですが、これを解消する簡単で即効性のある方法があります。

私は常々「探す時間」と「待つ時間」は人生で最も無駄な時間であると考えています。そこで、その日一日「何を探し、何を待ったか?」をノートに書きだしてみてください。自分の仕事がどこで、何によって渋滞しているのか、一目瞭然となるはずです。

すき間時間にやるべきことを仕込んでおく

「探す時間」は自分だけの問題で、整理整頓や工夫で解消できますが、「待つ時間」は他人や社会との関わりの中で生じるものなので、完全に解消するのは困難です。

では、この時間を限りなくゼロに近づけるためには、どうすればいいのでしょうか。

私は仕事をクリアファイルに分類し、常に持ち歩いています。これを待ち時間の長さや気分に応じてカバンから選び、取り組んでいます。ビジネスパーソンなら常に小さな仕事を20~30は抱えているはずです。待ち時間が1日合計30分から1時間あったとしても、その間にやるべきことを整えて仕込みをしておけば、1日の生産性を相当上げることができます。

スケジュールを詰め込むのはNG

時間を効率的に使おうとするとき、ほとんどの人はスケジュールを詰め込もうと考えます。この方法は順調に事が運べば効率が上がりますが、トラブルが発生すると大渋滞を招き、トータルでは損をします。むしろ1日の予定が5件ならば、あえて4件に減らして隙間をつくっておくことが大切です。

混雑で遅延が慢性化していた電車路線で急行を廃止して各駅停車だけにしたところ、到着が数分早くなったという事例があるように、「ゆっくり行ったほうが、早く着く」という事実は、様々な実例で科学的にも証明された「渋滞学」の最大の成果です。

誰もが目先の数分を失うことを恐れ、入念な準備や、仕事にひと手間かけることを怠って、結果的には損をしています。まずは、ゴールを設定し、「最短でたどり着くためには、何が必要か?」とさかのぼって発送することが大切です。

10年、20年先の自分を予測する

この発想は、ビジネスパーソンのキャリアアップを考える上でも重要なことです。今後、人工知能の発達で単純な判断業務はすべて不要となり、ビジネスの世界にも大きな変化が訪れます。

5年先、10年先の自分の姿を予測し、情報を収集して対策を立てておくべきです。効率的に時間を使うことは大切ですが、増えた時間を使って新たな価値を創造することができなければ、時間術など無意味ではないでしょうか。

お話を聞いたのは●西成 活裕さん(東京大学先端科学技術研究センター教授)
Katsuhiro Nishinari

1967年生まれ。数理物理学者。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。龍谷大学理工学部数理情報学科助教授、ケルン大学理論物理学研究所客員教授などを経て2009年から現職。著書『渋滞学』は各界から絶賛され、多くの企業の業務改善に関するコンサルティングを行っている。