
【名作椅子の理由】日本で生まれた休息のための椅子
厚織生地の座面、木製のアームレスト、パイプというシンプルなつくりの「ニーチェアエックス(Nychair X)」。椅子研究者の西川栄明さんも長年愛用しているリラックスチェアだ。日本人デザイナーが半世紀以上も前につくった椅子は、色褪せることなく多くの人の生活に溶け込んで体を癒している。
快適な座り心地を、どこへでも持ち運べる。
「ニーチェアエックス」は家具デザイナー新居 猛氏が設計したリラックスチェア。厚織生地の座面に身を沈めると、「く」の字を描いたカーブが腰をしっかりと支え、高い背面は頭まで預けることができる。座ると自然に足を投げ出す姿勢となり、思わずほっと息をつくような座り心地だ。
数多の椅子に座り、研究を続けている西川栄明さんは「折り畳み椅子で、これほど座り心地が良い椅子はなかなか見当たらない」と言う。
「私はロッキングタイプのニーチェアを約30年愛用しています。リビングでテレビを見ながら、体をゆらゆらさせてくつろいでいます。長い時間座っていてもストレスがない」
長く愛用している理由は座り心地だけではないと続ける。
「折り畳んで持ち運べるというポイントも大きいです。引っ越しの時でも手軽に持って行けるし、リビングからテラスへ持ち運んで日向ぼっこするにも便利です」
ニーチェアエックスは約6.5kgと、折り畳めば女性でも片手で持ち上げられるほど軽量で、アウトドアなどにでも気軽に持ち出せるのだ。

日本人が考えた椅子だから、日本人の生活にしっくりと馴染む
1970年に誕生した「ニーチェアエックス」は、“多くの人に愛される、カレーライスのような椅子”を新居氏が目指して設計。“座り心地を落とさず、とにかく安く、道具のように役立ってこそ椅子”という信念のもと、折り畳み式の構造を考案し、輸送コストと販売価格を抑えることに成功。日本だけでなく海外への輸出も進み、ミニマムなデザインで機能的にも優れていると世界的に評価された。
そして、西川さんは「日本人が考えた椅子であることも座り心地に関わっている」と話す。
椅子のある生活は、家の中でも靴を履く西洋人が日本にもたらした文化だ。椅子のセレクト次第では、靴を履いている前提の座面高にできあがっていて、靴を脱いで座った時にちょっとした違和感を感じる場合もある。
「その点、新居氏のような日本人デザイナーが設計した椅子は、日本人の生活にしっくりと馴染むはずです」
日本で生まれて世界から認められた名作椅子の「ニーチェアエックス」。その懐が深い座面に腰掛けて、座り心地を確かめてみてほしい。

お話を聞いたのは●西川 栄明さん
にしかわ・たかあき/編集者。椅子研究者。椅子や家具に関すること、森林や木材から木工芸に至るまでの木に関することなどを主なテーマにして、編集執筆活動を行っている。著書に『新版 名作椅子の由来図典』『樹木と木材の図鑑-日本の有用種101』など。共著に『名作椅子の解体新書』『Yチェアの秘密』がある。
販売ブランド
Nychair X
https://www.nychairx.jp/nychairx
取材・文●柳澤 美帆 撮影●Cassina ixc(2024年9月掲載)
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