ライフデザイン

立ち上げ3年で話題のワイナリーに! 茨城県つくばの住宅街で誕生したナチュラルワイン

国産ぶどうを100%使い、日本国内で醸造された「日本ワイン」の人気が高まっている。茨城県つくば市の住宅地でフランス仕込みの本格的なナチュラルワインを造る「le bois d’azur(ル ボワ ダジュール)」は立ち上げから3年。2023年に初めてリリースしたワインは瞬く間に完売した。なぜ、つくばでワインだったのか。そして3年で飲み手を惹き付けるワインができた理由とは?ワイン造りの信念を、造り手の青木 誠さんに聞く。

母が育てる巨峰を無駄にしたくない。その想いからワインの道へ

近代的な「つくば駅」から車で約15分。のどかな住宅地の一角で、「le bois d’azur」の醸造主・青木誠さんが出迎えてくれた。どこにワイナリーがあるのだろう。そんな疑問をよそに、青木さんの実家のガレージに入ると、ぶどうを搾るプレス機や醸造タンク、貯蔵用の樽が所狭しと並び、これから仕込むもぎたてのブドウのケースが山積みになっている。

「le bois d’azur」の醸造主・青木 誠さん。1986年生まれ。29歳で渡仏し、ワインを学んで帰国。ワイナリーは実家のガレージを改装したもので、室内は真夏でも温度が適正に保たれている。

続いて案内してくれたぶどう畑は、ワイナリーのすぐ目の前。すべて食用の巨峰である。畑の管理者は青木さんの母親で、このぶとう畑にこそ青木さんがワイン造りの道に入った原点がある。

もともとは祖父が野菜を育てていたごく普通の畑だったが、住宅街にあるため、風の強い日は砂埃が舞って近隣住民の迷惑になりかねない。そこで2000年からは母がぶどう畑へと切り替えたのだった。

「巨峰はすべて種ありです。種なしにしたり、無理に実を大きくしたりするホルモン剤を使わずにずっと育ててきました。薬を使うことが人体に害があるとは思ってはいませんが、母はぶどうが自然なかたちで育つことをよしと考えています。でも、その年の気候や作業の具合によって小さい粒の実がたくさんできることもある。むしろ甘味の凝縮感があっておいしいくらいですが、市場には出しづらい。それを生かすにはどうしたらいいんだろう……って子どもの頃から考えていたんです」

青木さんは、生態系への興味から大学の農学部へと進み、農業への興味から、次第にワイン造りに興味を持つようになる。

2015年に渡仏し、ボーヌ農業促進・職業訓練センター(CFPPA)で就学してワイン醸造・ぶどう栽培に関する資格を取得後、2019年までジュラとブルゴーニュのワイナリーで修業。そして、帰国後の2020年春、同じくフランスのワイナリーで修業を積んだ妻とともに、ワイナリーを立ち上げた。

ワイナリーの目の前、住宅街に広がる巨峰のぶどう畑。
収穫したてのワイン造り用の巨峰。そのまま食べても美味!

つくばはワインを「造る」「売る」という循環の環境が整っている

現在は、自社の巨峰の畑の他にも土地を借り、合計約3ヘクタールの畑でぶどうを育てている。つくばの土はふどう栽培に適しているのだろうか?青木さんがぶどうを育てる別の畑を見せてもらった。筑波山の手前に広がる緩やかな傾斜地の畑の広さは約20アール(2000平方メートル)。約500本が植わる。

「ここは花崗岩と粘土質の土壌です。花崗岩はぶどう栽培に向きますし、粘土質はより深く根を伸ばさないと水分が吸収できないため、この土地のいろんな要素を取り入れたぶどうができるんじゃないかと期待しています。殺虫剤や除草剤、化学肥料を使わずにゆっくり育てています」

地元を出て初めて、青木さんは「つくばがナチュラルワインに熱い地域だと気づいた」という。

「つくばには、ナチュラルワインを取り扱うインポーターの方々やワインを大事に売ってくれる酒販店や飲食店、それにワインに合うパン屋、シャルキュトリー、チーズ屋などもあります。造ったワインが飲み手に届く環境が整っていることがありがたいですね」
 
2017年、つくば市が「つくばワイン・フルーツ酒特区」の認定を受けたことにより、「特産酒類の製造事業」の分野でワインやフルーツの酒の生産がしやすくなったことも追い風になった。

2020年に苗を植えたぶどう畑。化学農薬や化学肥料を使わず、有機栽培でも許可されているボルドー液(硫酸銅と消石灰の混合溶液)を必要最低限のみ使って栽培している。
ヒムロッドという食用品種。ピノ・グリ、ソーヴィニヨン・ブランといった品種のぶどうも育てている。
青木さんは「完全に熟したぶどうを収穫したい」との考えから、種が茶色になるまで待って収穫をする。

世界最高峰のワイナリーの学びを実践。いずれは世界で戦えるワインに

「le bois d’azur」は2023年初頭に初めてのワインのリリースをした。生産量が少ないこともあるが、リリース後は即完売。味わった飲み手からは、高い評価の声が届いた。青木さんがワイン造りで心を砕くのは、味わいだけではない。ぶどうの栽培から醸造におけるすべてのことだ。

青木さんが手掛ける自然な栽培方法は、自身が勉強に赴いたフランスのワイナリーの栽培方法を踏襲している。醸造においては、亜硫酸を添加しない、フィルターをかけない、清澄作業をしないことを方針とする。その分、ワインが安定しないため、しっかり目をかけるよう心がけている。

「ナチュラルワインが造りたい、と頭で決めていたわけではありませんが、いろんなめぐりあわせでたどり着いた勉強先がナチュラルワインのトップ生産者たちでした。実際に行ってみたら純粋においしい。だからこの方向で行こうと思いました」

立ち上げからわずか3年ながら、青木さんは想定していた以上の手ごたえを感じているという。

「自分たち夫婦がフランスで勉強してきたことは、世界でもトップレベルのことだと思っています。それをブレなく、つくばという土地にあった方法で忠実にやり続ければ、きっと間違いないものになると信じています」
 
完成したワインの味わいだけでなく、栽培から醸造までこれほど心を砕くのは、「いずれは世界で戦えるワインになることを目指している」からだ。

「まだまだ先の話ですが(笑)。いつかフランスの修業先の人たちに飲んでもらって意見がもらえたらいいですね。ここ日本でも、見た目だけじゃないおいしさや価値を理解して味わってくれる人が増えるといいなと思っています」

2023年にリリースした白ワイン「mon petit blanc」(写真)はスモモやネクタリンのようなフレーバーとハーバルなニュアンスが広がる。赤ワイン「mon petit rouge」共に現在完売。
フランス現地では、「ごく当たり前に食事との組み合わせでマリアージュを楽しんでいました。食事と合わせることにより、ワインが劇的においしく感じることを日々体感しました」と語る青木さん。

つくばの酒販店「葡萄酒蔵ゆはら」から見る「le bois d’azur」

20年ほど前からネットショップを経て、つくばに実店舗を構えるようになったワイン専門店「葡萄酒蔵ゆはら」の湯原 大(ゆはら・ふとし)さんに話を聞いた。取り扱う商品の95%以上がナチュラルワインである。

湯原さんによると、「つくばは飲食店や生産者などワイン関係の人がよく足を運んでくれる街」だと言う。「le bois d’azur」の立ち上げから見つめてきて、その印象をこう語る。

「まずワインが素直にちゃんとおいしい。成り立ちの話もすごく自然で腑に落ちます。変に無理や背伸びをせずに取り組んでいる姿勢が魅力的です。酒販店として、目新しいから取引を始めるのではなく、この先もしっかり付き合いたいと考えています」


<取材協力>
le bois d’azur(ル ボワ ダジュール)
https://leboisdazur.com/
 
葡萄酒蔵ゆはら
茨城県つくば市松代2-10-9
Tel:029-875-6488
13:00~18:00 土・日・祝休
http://wine-yuhara.com/

取材・文●沼 由美子 撮影●大沼ショージ(2023年10月17日掲載)

関連記事もご覧ください!

今夜、夫婦でバーへ。東京・湯島「EST!」に学ぶ、バーの楽しみ方
休日の昼は麺! Vol.3「卵かけペペロンチーノ」のレシピ
日本で生まれた「クラフトコーラ」の楽しみ方
“高感度な”ビジネスパーソンに大人気! 塊根植物の魅力
自衛隊式「絶対散らからない」整理整頓テクニック