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お墓、家紋、郷土史を手がかりに「ご先祖探し」を楽しもう!

お盆は先祖の霊を迎えて供養する行事。「うちのご先祖様は、いったいどんな人物だったのか」と思いをはせることもあるだろう。家系図作成のプロである行政書士の丸山学さんは「せっかくの機会ですから、家系について実際に調べてみましょう。自らのルーツを遡る過程には、謎解きのようなおもしろさがありますよ」と話す。お墓や家紋など限られた手がかりから真実を辿っていく、丸山流“ご先祖探し”の楽しみ方を聞いた。

歴史に埋もれた、先祖たちのドラマを発見しよう!

先祖探しは、一級のエンターテイメントである。それが、これまで1000件もの家系図作成を引き受けてきた丸山さんの結論だ。

「推理小説でいえば、探偵役は自分、明らかになる真実もすべて自身のものなのですから、おもしろくないはずがありません。どんなミステリー小説でも味わえない興奮や感動があります」

丸山さんがいう先祖探しは、ただ人物の名前や家系図を明らかにするだけではない。その過程で現れる古文書などの記録から、先祖がどんな時代をどのように生き抜いていたのか、その埋もれたドラマを発見するのも醍醐味の一つだという。

「ある依頼人のご先祖を辿っていったところ、戦国時代末期の武家に行き当たりました。この武家は、織田信長との縁が深い名門・池田家に仕えていました。武家に残された“由緒書”と呼ばれる文献には、二代目当主の活躍が臨場感いっぱいに描かれていました。花隈城攻め(織田信長が、謀反を興した家臣を討った合戦)の最中には、池田家君主に対し作戦を提案、それが実際に採用され、結果として花隈城が落城しています。もし依頼人のご先祖の進言がなく、信長が返り討ちにあったとしたなら、日本の歴史は大きく変わっていたかもしれません」

誰もが、名字の他に「本姓」を持っている!

実際の先祖探しにあたり、丸山さんは大きく「上から辿る」と「下から辿る」という2つの方向性から調査を進めていく。

「名字や家紋などから、〇〇家の末裔ではないかなどと類推していくのが上から辿る方法です。一方で、戸籍を辿り、身近なルーツから着実に調べるのが下から辿る方法で、両者がかみ合った時に、ご先祖様の姿がよりはっきりと見えてきます。ロマンがあるのは、やはり上から考えていくことです。例えば、歴史上の人物で自分と同じ名字の人がいて、土地的にもゆかりがあるかもしれないと思ったら、そこでその人物がご先祖であるという仮説を立て、検証する。この過程こそ謎解きなのです」

なお、上から辿るために前提として知っておきたいのが、名字に関する基礎知識だ。現在使われている多くの名字のルーツは主に武士が自らの領地を明らかにするために冠した、いわば二つ名であり、実はそれとは別に、平安期に天皇から賜った古代の「本姓」が存在している。源、平、藤原などがその代表格で、武士もまた正式な文書ではこの本姓を名乗っていた。例えば、徳川家康なら「源朝臣家康」というように、名字とは別の本姓がある。実はこれは日本人の誰しもに当てはまることで、本姓を知るのは先祖を1000年遡る上での手がかりとなる。

「明治時代までは、うちの本姓は〇〇だ、という感覚が残っており、お墓にもそれを刻む人が多くいました。自家だけでなく、本家のお墓なども確認して本姓を調べてみるといいでしょう。それだけで、平安時代を生きた歴史上の人物の、誰の血を引いているかがわかることがあります」

謎解きを助ける最強ツール「国会図書館デジタルコレクション」

下から辿る方法については、まずはできる限り戸籍を遡るのが基本となる。現在、取得できる可能性のあるもっとも古い戸籍は明治19年式のものであり、そこまで辿れると江戸時代後期の先祖の名前まではわかることが多い。

「ある程度名前がわかったら、その土地の郷土史などを見ると先祖が登場してくることがあります。一般人であっても、例えば自治会長をやっていたりすれば何らかの記録が残っているものです。そこでどういった人物だったのかがさらに明らかになるはずです。なお、近代の祖先について調べる強力なツールとして『国会図書館デジタルコレクション』があります。検索窓に人名を入れるだけで、その記載のある本が一瞬で検索できます」

その他に、菩提寺に保管されている過去帳も重要な資料となるが、個人情報保護の観点から直接見ることはまずできない。住職と懇意なら、そこに自らの一族についての記載がないかを聞けば、先祖の名前などを教えてくれるかもしれない。

「2代、3代前のご先祖様であっても、意外に知らないことが多いものです。その人生に触れるだけでも、かなりのドラマがでてきます。ご先祖探しの謎解きの中で、一族の人々の人生が連綿とつながった先に今の自分がいると実感すると、きっと自らの人生がより素晴らしいものに思えるはずです」

お話を聞いたのは●丸山学さん

まるやま・まなぶ/行政書士。丸山行政書士事務所代表。2001年に行政書士事務所を開業。一般的な行政書士業務のかたわら、年間80件ほどの「先祖探し」を受託するなど、家系図作成に積極的に取り組む。自分の先祖を900年分辿ったことも。講演やテレビ、ラジオ、雑誌などのメディア出演も多数。主な著書に『先祖を千年、遡る』(幻冬舎新書)、『家系図を作って先祖を1000年たどる技術』(同文館出版)など。
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