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名字トップ3「佐藤」「鈴木」「高橋」の「家紋」は?日本独自の「家紋」の不思議

家紋は一族を表す日本独自のエンブレムだ。ふだんは意識しないそのデザインに、実は家族のルーツを紐解くヒントがあるかもしれない。家紋研究の第一人者・高澤等さんに、家紋の世界の魅力を聞いた。

そもそも、なぜ「家紋」が生まれたのか?

「九曜」牛車の九曜と家紋の九曜は形が違い、家紋ではこれを『蛇の目九曜』という。

平安時代の貴族の牛車に「九曜」を描いたのが、家紋の始まりと高澤さんは語る。

「九曜は現在も家紋として用いられています。丸で表した九つの星を集めたデザインで、交通の厄除けになると信仰されていたことから、平安時代には、どの牛車も同じ九曜をつけていました。後に、道ですれ違ったとき、どちらの牛車が道を譲るべきかという問題を解消すべく生まれたのが家紋です。一族ごとに異なるデザインを使って、家の格や位を明確に示したのです」

一族を象徴するマークとして家紋が意味をもってくると、鎌倉時代から武家や公家が日常的に用いるようになった。

「最初は源氏が白旗、平家が赤旗と色だけで自軍と敵軍とを分けていたのですが、平家が滅びると白旗は将軍家専用のものとされ、色以外で区別する必要が出てきたのです。そこから旗に描く自軍のマークとして旗紋が生まれ、武士の家紋となりました」

それが次第に、武士以外にも広まり、家固有のマークとして使われるようになった。現在でも、冠婚葬祭のような「家」や「親族」を強調する場で着用される。

名字と家紋は、どう関係している?

一族を表すために使われてきた家紋。名字とはどのような関係なのだろうか。

「名字も家紋も、どちらも一族を表すものに変わりはありません。ただ、名字は土地の名前に由来することが多いですが、家紋はそうでないことが多いです。また、名字に対して、家紋はデザインですので、誰もが読み書きができなかった時代にも、ひと目で判別ができたので庶民にも親しみやすかったでしょう。つまり文字で表せば名字であり、形で表せば家紋という相対関係にあるんです」

初めて会った人でも、名字や家紋が同じであれば親近感が湧きそうだが、これは遠い親戚ということなのか。

「名字と家紋が同じなら、遠い親戚になるというわけでもありません。もちろん、可能性は格段に高まりますが。名字を変えた一族、誰かから名字を与えられえた一族もありますし、勝手に決めた一族もあります。家紋についても同様ですし、複数の家紋を持っていた一族もあります」

実際、戦国武将の伊達政宗も、さまざまな家紋をコレクションしていたようだ。

5つの家紋を厳選!そのルーツをたどる

これまで高澤さんが確認しただけでも、家紋は約3万種類あるというが、未知の家紋も含めると、おそらく5万種類はあるだろうとのこと。全国に多い名字トップ3によく用いられる家紋と、ドラマなどで日本一有名な家紋、そして高澤さんが推す家紋の合計5つを紹介する。

■名字1位「佐藤」に多い家紋とは

「佐藤姓の4~5割は『源氏車』紋を用いています。『源氏車』は伊勢神宮に仕えた一族が家紋に用いたもので、朝廷からの贈り物にかぶせていた布のデザインに由来します。伊勢神宮の宮方にルーツがある人から始まり、たくさん分岐があって、佐藤という名字とともに広まっていった可能性が高いと言えます 」

「源氏車」

■名字2位「鈴木」に多い家紋とは

「鈴木姓は『稲』紋を約半数が用いています(鈴紋、幣紋を用いることも多い)。稲を刈り取って積んだ状況を関西の一部の方言で『ススキ』と呼び、それがなまって名字の鈴木になったと言われています。さらに鈴木姓の本姓は、熊野大社に仕えた穂積姓で、まさに稲にまつわる名字です。ただし稲といってもルーツが農業に従事していたというわけではなく、名字をそのまま家紋としてデザインしたもののようです」

「包み抱き稲」

■名字3位「高橋」に多い家紋とは

「高橋姓は約半数が『笠』紋を使っています。笠という漢字を分解すると「竹を立てる」となります。現代でも住宅の建前など、神事を行うときに竹を4本立てて神様を降臨させ、お祈りをする儀式を見たことがあるかもしれません。天の神様を降臨させる架け橋として竹を立てかけることを担ったのが高橋姓を持つ一族でした。『笠』紋は高橋の担っていた役割を表した家紋だと考えています」

「丸に切り竹笹に笠」

■ドラマで話題の人物にちなむ葵の紋

歴史ドラマなどで一度は目にしたことがあるであろう、徳川将軍家の家紋でもある葵の御紋。そのルーツはいったいどこにあるのか。

「葵は、京都の上賀茂神社、下鴨神社の御神紋です。つまり、徳川家はその前身の松平家を含めて、祖先が賀茂一族であったと思われます。現在、上賀茂神社・下鴨神社のお祭りは葵祭と呼ばれ、街のあちらこちらに実際の葵の葉を飾っているほどです。このように日本人が忘れていることを、家紋を通じて掘り起こすことができるんです」

「三つ葉葵」

■ほっこりする逸話が魅力「雁金」の由来とは

さまざまな家紋を見てきた高澤さんの好きな家紋は、雁金(かりがね)だ。

「中国の武将が敵国に幽閉されたことを知った王様が、雁金(鴨の一種で目の縁が金色)の足に手紙を結んで報せてきたという話を作って敵国を脅し、無事に帰国させたという故事があります。君臣の結びつきを描いたもので、それをそのままデザインしたのが雁金です。人と人を結びつける逸話がほっこりしているところが気に入っています。信州に多い家紋で、真田家でも用いられています」

「丸に結び雁金」

ごく一部には、色付きの家紋もあるという。武家の家紋には色などが厳密に指定されているものもあり、これは色付きの陣幕に家紋が描かれたことの名残ともいわれているそうだ。

自分の家紋を調べるには

家紋の世界がわかってくると、自分の家紋も気になるもの。家に紋付着物や仏壇に家紋があるなら話は早いが、手がかりがない場合はどうすれば調べられるのか。

「まずは先祖のお墓参りをしてみましょう。その墓跡に刻まれた家紋が、あなたの家紋といえます。墓石に家紋がない、お墓が遠くてなかなか行けないということであれば、親戚に聞いてみましょう。戸籍から本家にあたる親戚をたどってみてもいいかもしれません」

それでもわからなければ、家紋を調査する専門家もいるそうだが、それ相応のお金が必要になる。

「中には自分の個性や職業を盛り込んだオリジナルの家紋をデザインされる人もいます。ただ、そこには一族の歴史の継承はありません。そのまま継承されてゆけばいいのですが、往々にして個人の思いが強すぎて子孫にあまり継承されにくいのが難点です」

「わびさび」を感じられる家紋の魅力

家紋文化の未来について高澤さんは、こう語る。

「家紋文化は下降線をたどっているように思われるかもしれません。ですが、最近はクールジャパンの流れの中、ドイツの学生が、私の元に家紋の取材に訪れたりしています。こういったことから、世界的に家紋文化が広まる可能性も秘めていると言えるでしょう。ヨーロッパの貴族のエンブレムには獅子や鷹、薔薇など強いものや高貴なものをデザインしますが、日本の家紋は、ありふれたものの中に意味を見いだしています。そこに日本らしさ、『わびさび』を感じられると思うんです。家紋に興味を持つことで、日本文化や歴史を振り返るきっかけになるといいですね」

お話を聞いたのは●高澤 等さん

たかさわ・ひとし/家紋研究の第一人者にて、日本家紋研究会会長、文筆家。フィールドワークで収集した膨大な家紋データに基づく研究スタイルで、その使用家や分布などの統計を用いて家紋研究・姓氏研究を行っている。従来の発想にとらわれず、積極的に新説を唱えて家紋研究に一石を投じることで知られる。著作活動は、家紋のみならず戦国史、姓氏、地名、風俗と幅広い。主な著書に、『家紋大事典』(東京堂出版)、『新・信長公記』(ブイツーソリューション)、『戦国武将 敗者の子孫たち』(洋泉社)、『日本の名字・家紋大事典』(ユーキャン)など

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