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おばあちゃんYouTuberが教えてくれた「一人暮らし」の楽しみ方

老後の一人暮らしは寂しいと思うかもしれないが、自分次第で、気兼ねなく自由に過ごせる、贅沢な日々にもなる。築55年の団地で一人暮らしをする様子をYouTubeで配信し、日々の暮らしをつづったエッセイ『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』も話題となっている多良美智子さん(88歳)に、居心地の良い家で一人暮らしをする素晴らしさを聞いた。

写真/林ひろし

誰にも遠慮せず、自分が主役の時間を楽しめる

夫が亡くなったのは8年前。私が79歳の時でした。それ以来、家族と暮らしていた団地で一人暮らしをしていますが、毎日とても楽しい生活を送っています。一人暮らしの良いところは自分が主役になれるところ。家族と住んでいた頃は、家族が主で自分は二の次で、外で働く夫や勉強を頑張る子どもたちの足を引っ張らないよう、家のことをしっかりするのが私の仕事だと思っていました。それが一人になったら、誰に遠慮をすることもなく、24時間自分のためだけに過ごせるようになったのです。夫は9つ年上だったので、いずれは一人になるという覚悟ができていましたし、もともと家に一人でいるのが好きなので、寂しいと思うことはありません。

でも、一人で家に引きこもってばかりではどんどん老けていってしまいますから、外に出るのは大事です。だから私は、写経や歌、着物のリフォームなど、地域のコミュニティが主催するお金のかからない4~5つのお稽古事に通っています。そうすると月に3~4回は必ず出かける日ができますし、お稽古事に行けばお友達と会える。年下のお友達とファッションや美味しい食べ物、映画やお芝居についておしゃべりをすると元気がもらえます。行ける時は、映画やお芝居に一緒に連れて行ってもらうことも。夫がいた時は、夫を置いて出かけるのは抵抗がありました。でも一人になってからは誰に遠慮することもなく、どこにでも行こうという気持ちがあります。自分で積極的に動かないと、人は動いてくれません。自分から動くことが大切だと思います。

自分の好きなものだけに囲まれる

風通し良く暮らしたいと昔から思っていたので、夫が愛用していたソファやタンスなど自分一人の生活に必要ないものは全部処分しました。代わりにお稽古事で描いた水彩画や絵手紙を額に入れて飾ったり、手縫いのクッションなどお気に入りのものだけを置くように。そうして今は本当に居心地の良い家になって、自分のお城ができた気分です。床に物を置かなければ掃除もしやすいし、足をぶつけて怪我をすることもありません。YouTubeを始めたのも、お気に入りの手芸や絵手紙などの作品は自分がいなくなった後、動画に残していれば時々子供たちに見返してもらえるかなと思ったのがきっかけです。結果的にたくさんの人からコメントがもらえるようになり、新たな活力になりました。

そんな居心地の良い部屋で、一人で趣味の編み物や針仕事に没頭する時間も大好きなので、退屈することはありません。読書も一人で楽しめる趣味の一つ。読書家の友達が読んだ本を回してくれるので、今まで読んだことのない本に出会えるのがうれしいですね。読み終えたら、日記に本のタイトルと作者、日付を記録します。最近読んだ本で面白かったのは倉本聰さんの自伝『破れ星、流れた』。倉本聰さんは同い年なので、戦後の状況など共感できる部分がたくさんあって、あっという間に読み終えました。あとは録画したドラマや映画を見たり。最近では、いろいろなジャンルを見ることのできるYouTubeもよく利用しています。コロナ禍以前は寄席に見に行っていた大好きな落語も、今はYouTubeで楽しんでいます。

1日でも長く、楽しい一人暮らしを続けるために

一人暮らしを続けるには、健康でいることが何より大切です。だから、食べることは一番大事。1週間で食べる物をざっくり決めて、家族がいた時ほどではないですが栄養に気を遣っています。年をとると自然と粗食で満足できるようになるので、それで十分。若い頃から器が大好きなので、切っただけのちくわのようなシンプルなおかずでもお気に入りの器にきちんと盛り付けるだけで、立派な一品に。きれいに器を並べて、箸置きを置いて食事をするスタイルは大事にしたいと思っています。子供たちが遊びに来たり、友達に誘われた時は、張り切っておいしいものを食べに行きます。

夜は毎日、iPadでLINEのビデオ通話を繋ぎ、離れて暮らす次男と孫と「リモート夕食」をしています。顔を見ながら食事ができるので、まるで一緒に住んでいるかのよう。滑りやすくて怪我が不安なお風呂も、ビデオ通話で顔を合わせる晩ご飯の前に入っておけば家族を安心させることができます。長男も週に1回は連絡をくれています。子供たちは一緒に住もうと言ってくれたこともありますが、一人で誰にも気を遣わず自由にできるのが、一番ストレスがたまりません。離れて暮らしているから、たまに会う時に笑顔になれる。今が一番いい距離感ですね。

年をとった一人暮らしで大変なのは掃除です。だから、最近は月に2回お掃除のサービスをお願いするようになりました。大きな部屋ではないので、1時間で隅々まできれいになって、とても気持ちがいいです。あとは気になった時に自分でハンディタイプの掃除機をかければ十分です。他にも一人で重い荷物を持つのは大変なので、米や醤油などの重たい買い物はスーパーの宅配サービスを利用したり、息子が来た時に車を出してもらったりします。無理はせず、頼れるところはありがたく頼るようにしています。

夫の看護が必要になった時、訪問診療やお掃除サービスなど、外部の力を借りることができるとわかりました。だから介護が必要な体になったとしても、訪問介護ヘルパーさんに来てもらって一人暮らしを続けたい。自分の居心地のいい家で、1日でも長く、毎日楽しく、怪我をせず過ごせればいいなと思っています。

【話題のエッセイ】
多良美智子『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』(2022年/すばる舎/税込1430円)

<出版社の編集担当の方より>
高齢者の一人暮らしを勇気づけられる本を企画していたところ、「Earth おばあちゃんねる」に出会いました。多良美智子さんのセンスの良さや、素敵な年の重ね方をしていることが動画から伝わってきて、書籍を出しませんかと声をかけました。実際に会ってみると、思った以上に素敵な方でした。本の発売後、60代や70代の方から、「この先老いていく人生への勇気をもらった」「元気づけられた」という声をたくさんいただきました。2023年3月には、多良美智子さんの元気の源である食事をテーマにした2冊目が発売予定です。1冊目でも食事に関する章については、「簡単な料理が多く、気が楽になった」という読者の方が多かったので、調理師免許をお持ちで料理が得意な美智子さんに、食事についてたっぷりと語っていただく予定です。

お話を聞いたのは●多良美智子さん

たら・みちこ/1934年長崎県生まれ。27歳の時に結婚。8年前に夫を見送ってからは、1967年から住む神奈川県の団地に一人暮らし。2020年より当時中学生の孫とYouTubeに「Earth おばあちゃんねる」を開設。日々の暮らしを配信したところまたたく間に人気チャンネルとなる。登録者数は現在約15万人、最多動画再生数は230万回超。著書に『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』がある。
「Earth おばあちゃんねる」https://www.youtube.com/c/Earth_Grandma/featured