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“パワーカップル”こそ知っておきたい!「住宅ローン」の賢い返し方

高収入の共働き夫婦=パワーカップルであれば、それなりの借入額で住宅ローンを組んでも難なく返済できると考えがちだが、収入が高いからこそ注意すべき点がある。滞りなく返済するためのポイントについて、ファイナンシャル・プランナーの黒田尚子さんに聞いた。

パワーカップルの住宅ローン、4つの注意点

住宅ローンを組む際は、何よりも返済を意識することが重要です。以下の注意点を押さえておいてください。

【注意点①】
現在の収入を基準にしない

共働きで収入が多いと、高いローンを組みがちですが、ローンを組んだ時点の家庭の状況や収入が完済まで続くとは限りません。出産や子育て、親の介護、自身の病気などで夫婦の片方が働けなくなったら、返済し続けられるでしょうか。子どもの教育費や老後資金を備える必要も出てくるでしょう。狭い賃貸マンションから広い戸建てに引っ越せば、水道光熱費が上がる可能性も高いはずです。

夫婦ともにバリバリ働いている現状を前提にせず、将来のことを踏まえてローンを組むことが大切です。現在支払っている家賃や住宅購入のための積立金をもとに月々の返済額を考えると、現実的な返済計画を立てられるでしょう。

【注意点②】
「返済期間」はライフプランに合わせて設定

返済期間が長ければ、月々の返済額を抑えて手元に資金を残せますが、利息や保証料は多くなります。逆に、短いと早く完済できて利息や保証料を抑えられますが、月々の返済額は高くなります。

返済期間は、ライフプランに合わせて考えることが大切です。収支に余裕があり、定年を迎えるまでに完済したいのであれば、短い方がいいでしょう。

老後資金を準備しながら日々の生活にも余裕を与えたい場合は、あえて返済期間を長くして、月々の負担を軽くする方法も。つまり資金計画と返済計画を別々に考えるわけです。例えば、返済期間25年の設定で借りられる金額でローンを組み、30~35年で返済すると、月々の返済額を抑えて無理なく返済できるでしょう。

【注意点③】
「頭金」は無理せずに入れる

無理のないローンを組むには、物件価格の1~2割の頭金を入れるといいといわれています。住宅購入時には諸費用がかかるため、合計して物件価格の3割程度を自己資金として準備するのが理想です。

しかし、3割というと、4,000万円の物件で1,200万円。現実的ではないと感じる場合は、手元のお金から頭金を算出しましょう。生活予備費(会社員は生活費の3~6カ月分、自営業者は1年分が目安)や近い将来に使う予定が決まっているお金を差し引くと、用意できる頭金を導き出せます。

将来の負担を軽減するため、頭金はできる限り入れたいものですが、手元のお金を残すことも考えましょう。

【注意点④】
繰り上げ返済・借り換えを考慮

40歳で35年ローンを組むと、完済は75歳。定年後に雇用継続しても60歳以降の収入は現役時より下がる傾向にあるため、月々の返済の負担が重くなります。

そのような事態を想定すると、繰り上げ返済や借り換えを活用し、60歳以降も無理なく返済できる額に調整していくのが無難。住宅購入以外のライフイベントにもお金を回すため、借り入れの時点で返済計画を立てましょう。

返済テクニックその①「繰り上げ返済」

ローン返済中にまとまった額を返済する「繰り上げ返済」。ローン残高を減らし、返済期間を短くできる手段ですが、より効果的に使うポイントがあります。

【ポイント①】
「返済期間短縮型」「返済額軽減型」を使い分ける

繰り上げ返済には2つの方法があり、一般的には期間を短くすることで利息軽減効果が狙える「返済期間短縮型」が優先される印象です。早めの完済を考える場合は、効果的といえるでしょう。

もうひとつの「返済額軽減型」は、返済期間は変えずに毎回の返済額を少なくする方法です。利息軽減効果こそ低いものの、月々の返済額を減らせるため、子どもの教育費負担が増えたり金利が上昇したりと、月々の支出を少しでも抑えたい時に役立ちます。目的に応じて選びましょう。

【ポイント②】
「繰り上げ返済貧乏」にならない

繰り上げ返済をして、早めに完済した方がいいと考えがちですが、そのために手元のお金を費やして、日々の生活に困ってしまうようでは意味がありません。結局フリーローンなどで借りることになったら本末転倒です。負債を減らすことは大切ですが、日々の生活費や子どもの教育費、老後資金を確保することも重要です。

【ポイント③】
住宅ローン控除との兼ね合いをシミュレーション

一定の条件を満たせば、住宅購入から最大13年間、年末のローン残高の0.7%が所得税から控除される「住宅ローン控除」(※)。ローンの金利が0.7%より高い場合は、購入から13年以内でも繰り上げ返済をすることで、利息が減る可能性があります。

ただし、繰り上げ返済には手数料がかかるため、金利が0.7%より高くても利息が減らないケースもあります。繰り上げ返済をした時と、しない時の利息をシミュレーションして、判断しましょう。

返済テクニックその②「借り換え」

「借り換え」とは、新たな金融機関で住宅ローンを組み、現在借りているローンを一括返済すること。次のようなメリット、デメリットが考えられます。

【借り換えのメリット】

  • 総返済額を減らせる
  • 毎月の支払いを減らせる
  • 返済期間を短くできる
  • 固定金利への切り替えで金利上昇リスクに対応できる
  • 団信の保障内容を手厚くできる

【借り換えのデメリット】

  • 手数料などの諸費用がかかる
  • 契約、審査を再度行わなければならない
  • 住宅ローン控除額が減るまたは受けられなくなる
  • 家計への負担が大きくなることがある
  • 思った効果が出ないことがある

次の3つの条件を満たすことで、借り換えのメリットを得やすくなるといわれていますが、それも絶対ではありません。ポイントを踏まえて、慎重に検討しましょう。

【借り換えの効果が出やすい条件】

  • 住宅ローン残高が1,000万円以上ある
  • 借り換え後の金利が1%以上低くなる
  • 残存期間が10年以上ある

【ポイント①】
必ずシミュレーションをする

借り換えの諸費用を払ってもメリットがあるか判断するため、借り換えシミュレーションサイトを活用しましょう。現状を入力すると、無料でさまざまなローンと比較してくれます。

新たなローンを選ぶ際には、借り換えの目的を明確にすることも大切。単に金利を低くしたいのか、固定金利に変えて金利上昇リスクを抑えたいのか、目的によって借り換え先が異なってくるからです。

【ポイント②】
現在借りている金融機関に相談する

借り換えの検討と並行して、現在ローンを組んでいる金融機関に「今のローンの金利は見直せますか?」と相談するのも、負担を減らす方法のひとつ。銀行は月々の返済を続けてほしいので、ローンの内容を見直す可能性があります。費用も手間もかかる借り換えと比べて、すでに借りている金融機関への相談は負担が小さいでしょう。

住宅ローンは金額が大きいので、少しの変更でも大きな変化につながります。数年に一度は返済額や金利をチェックし、他のローンと比べることで、払いすぎていないか判断できるでしょう。


(2022年11月15日掲載)

お話を聞いたのは●黒田尚子さん

くろだ・なおこ/ファイナンシャルプランナー、CFP(R) 1級ファイナンシャルプランニング技能士。立命館大学法学部修了後、日本総合研究所に入社。在職中にFP資格を取得し、1998年に退社、独立系FPとして活動を始める。現在は、各種セミナーの講師やメディアでの執筆、個人相談を行っている。主な監修本・著書に『おひとりさまのはじめてのエンディングノート』(主婦の友社)、『お金が貯まる人は、なぜ部屋がきれいなのか「自然に貯まる人」がやっている50の行動』(日経BP)など。
https://www.naoko-kuroda.com/