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国産クラフトジンの魅力とは?第一人者がお勧めする5銘柄も!

実はここ数年、日本のアルコール市場でジンの売り上げが伸びているのをご存じだろうか。特に人気の原動力となっているのがジャパニーズクラフトジンだ。しかも国内だけでなく、世界的に高い評価を受け、今や焼酎を超える輸出量を誇っている。一体、これまでのジンと何が違うのか。日本初のジンの祭典「GIN FESTIVAL TOKYO」を主催するなど、国内のジンムーブメントをリードする三浦武明さんに、その魅力と注目銘柄を伺った。

ジンは香りを楽しむお酒

ジンとはどういう酒か、説明できる人は多くないはずだ。簡単に説明すると、ニュートラルスピリッツ(農作物由来のクリアなアルコール)に、ジュニパーベリーをはじめとするボタニカル(草根木皮)を加え、再蒸留した酒をジンという。この過程により、ボタニカルによる華やかな香りが感じられる。特にイギリスで流行したことから、イギリスはジンの本場として根付き、そこで現在の香りを楽しむ酒へと洗練されていったのだ。

「自由度の高さ」が押し上げるクラフトジンブーム

クラフトビール、クラフトコーラも話題になっているが、クラフトジンとはどういうものなのか、三浦さんに伺ってみた。
 
「『クラフトジン』に明確な規定はなく、その土地ならではの素材を使用してつくられたジン、つまり『ご当地ジン』のことを指すことが多いです。もちろん、1980年頃から世界各地でアルコール醸造の法律が変わって小規模施設でもお酒をつくれるようになったのは、『クラフトジン』が流行することになったきっかけのひとつです。しかし何よりも、ジュニパーベリーを使用していればジンと名乗れる自由度の高さから、『土地ごとの素材を活かした香りを閉じ込められるお酒』という価値が加わったことが大きいでしょう。そこから個性的なボタニカルを使用したジンが数多くつくられ、これまでのジンとはひと味違うものが多くなったのです」
 
それが世界的に話題となり、日本にもジンのブームが到来した。

もともと三浦さんは、世界中のスパイスやハーブを使用した料理を紹介する仕事をしていた。その中でスペインを訪問した際に飲んだジンに衝撃を受け、そこからジンに興味を持ち、その地域に根付いたジンがつくられ始めていることに気づいたという。
 
「たとえば、地中海地方ではオリーブやローズマリー、養蜂家の方ならはちみつを素材としたジン。コニャックブランドの方たちはコニャックベースのジンをつくるなど、その土地ならではの素材や蒸留酒を活かしたジンを知りました。そこで世界でも類をみないほど伝統的な酒蔵が多く、地域や季節によりいろいろな食材がある日本でつくったらおもしろいんじゃないかと思い、日本の酒蔵の方たちに声をかけ始めました。当時、欧米やアジアで日本酒やジャパニーズウィスキーの人気が高まっていて、ジャパニーズクラフトジンが世界を席巻するのは間違いないと思ったら、ワクワクが止まらなくなったんです」
 
その感覚はまさに正しかった。現在、海外でのジャパニーズクラフトジンの人気はうなぎ登りで、輸出量に関しては5年前から約850倍になっている。特に柚子や山椒といった日本らしいボタニカルや日本の蒸留酒をベースにしたジンは、海外でも好意的に受け止められたのだ。

自分の好みを追求するのが、ジンの楽しみ方

自由で多様なジンの世界は魅力的だが、実際にどう楽しめばいいのだろうか。
 
「できれば、まずは本場英国のロンドンジンを楽しんでほしいですね。やはり伝統のロンドンジンあっての多様性です。現在のいわゆる『クラフトジン』は本当に多種多様で、ベースとなるスピリッツ、そしてボタニカルとして使用した素材によっても、全く違った印象になります現在進行形のムーブメントだからこそ、どの銘柄のどういうジンの味は押さえておくべきというのが難しくて、むしろそれが醍醐味でもあると思います。
 
最初はバーに出かけ、自分の好きな香り、今の気分などをバーテンダーに伝え、おまかせでジンを選んでもらうのも手です。いろいろ飲み比べて、自分好みの銘柄を探す喜びを味わってみて欲しいです。
 
最近は、酒屋だけでなくスーパーマーケットにもクラフトジンが置かれるようになってきました。そこで目につくのが個性的なボトルやラベルのデザインです。ジンをまだ飲んだことがないという人も、惹かれたデザインのジンを『ジャケ買い』するのも楽しみ方のひとつです。ボトルで買えば、いろいろな飲み方を試すこともでき、さらにジンの深い世界を楽しめますしね」

ジン初心者にもおすすめ!三浦さんが選ぶジャパニーズクラフトジン5選

■国産ジンの扉を開いた逸品「季の美 京都ドライジン」

メーカー:京都蒸溜所(京都)
主要ボタニカル:ジュニパーベリー、柚子、山椒、レモン、玉露、生姜など
アルコール度数:45%
希望小売価格:4,480円(700ml/税込)
https://kyotodistillery.jp/
 
イギリスのジン専門の蒸溜技師を招いて、日本ならではの素材と現代的な製法でつくられた、国産クラフトジンの先駆けとなった1本です。ベースには、日本らしく米を原料としたライススピリッツを用いているため、舌触りはまろやか。柚子、山椒、玉露といった和のフレーバーがジュニパーベリーの風味にうまく溶け込んでいます。
 
トニックで割って飲むのも良いですが、ベースに米を用いているので、お湯で割って、ふんわりとした香りが広がるのを楽しむのもおすすめです。
 
世界に最も影響を与えるジンのひとつに数えられるジンとなっています。ジャパニーズクラフトジンを語るには、ぜひ飲んでおきたい1本です」

■柑橘系を中心に宮崎の豊かな香りを閉じ込めた「OSUZU GIN」

メーカー:尾鈴山蒸留所(宮崎県)
主要ボタニカル:ジュニパーベリー、山椒、日向夏、金柑、柚子、椎茸、生姜、榊(さかき)、椎茸など
アルコール度数:45%
希望小売価格:4,290円(700ml/税込)
https://osuzuyama.co.jp/
 
「『きろく』や『中々』など人気焼酎で知られる黒木本店の別蔵、尾鈴山蒸留所。そこが手がけるクラフトジンは、人気の芋焼酎「山ねこ」をベースに、金柑や椎茸といった地元宮崎県産のボタニカルをふんだんに用いて、まるで宮崎の大地のアロマのような香りを満喫できます。さつま芋の風味があり、麹の力強さもあって、焼酎を飲む感覚で楽しんでください。
 
こちらのジンは、ソーダと「1:4~5」くらいで割って飲むことをおすすめします。氷を溶かしながらゆっくりと、食中酒としても楽しめます。もし手近にあれば、はちみつに漬けたレモンや季節のフルーツを入れて、さらっと飲むのも最高です」

■妖艶な香りをまとった芋焼酎ともいえる「424GIN -Classic botanicals-」

メーカー:若潮酒造株式会社(鹿児島県)
主要ボタニカル:ジュニパーベリー、コリアンダーシード、アンジェリカルートなど
アルコール度数:42.4%
希望小売価格:2,970円(500ml/税込)
http://wakashio.com/
 
「『Classic botanicals』の名の通り、シンプルに伝統的なロンドンジンに使用されてきたボタニカルのみを使用した、いわば鹿児島から世界に向けて挑戦を表明したジャパニーズクラフトジンなのです。
 
数種類の芋焼酎がベースで、それを木樽で蒸留癒される木樽の香り、そして芋焼酎のわかりやすい力強い風味を感じられます。飲み込んだ後にも奥行きのある香りが鼻に抜け、まさに香りを飲むジンです。芋焼酎が好きな人はもちろん、芋焼酎が苦手という人でも飲みやすいです。ソーダで割って、レモンを添えて飲むことで非常に豊かな香りのレモンサワーとしても味わえます」

■東京のオーガニック企業が本場イギリスでつくる王道ジン「ORGANIC BLACK CHAI GIN」

メーカー:BROWN SUGAR 1ST. AL(東京都)
主要ボタニカル:紅茶、ジュニパーベリー、シナミン、クローブ、カルダモンなど
アルコール度数:43%
希望小売価格:5,500円(700ml/税込)
https://brownsugar1st-al.com/
 
「東京の人気オーガニック食品メーカー『ブラウンシュガーファースト』が、オーガニックへのつながりを大事にしたジンをつくりたいと考え、本場イギリスの蒸留所とタッグを組んでつくったオーガニックジンです。
 
名前の通り、スリランカ伝統のブラックチャイをインスピレーションに、厳選された有機スパイスがふんだんに使用されています。本来食中酒ではないジンですが、これは食事との相性もバッチリです。贅沢にコーラで割ってもおいしいですよ。また化粧品のようなかわいいボトルとラベルのデザインにも注目です」

■積丹の大自然の香りを森林浴するように詰め込んで「火の帆(HONOHO)KIBOU」

メーカー:積丹スピリット(北海道)
主要ボタニカル:アカエゾマツ、ジュニパーベリー、エゾヤマモモ、エゾミカンなど
アルコール度数:45%
希望小売価格:5,940円(500ml/税込)
https://shakotan-spirit.co.jp/
 
「手つかずの自然にあふれている積丹の地方創生を目的としたプロジェクト。自社栽培から蒸留まで一貫して行ってつくられた、積丹の豊かな自然を詰め込んだクラフトジンです。自社農園や積丹の自然を巡るツアーを開催するなどして地方の活性化を図っています。
 
ベースは、クリアなニュートラルスピリッツなので、真っ白な画用紙に絵を描いたようにボタニカルを忠実に感じられます。アイヌの人たちに愛されたアカエゾマツをボタニカルの軸とし、奥深い針葉樹特有の香りを、トニックやソーダで楽しむのはおすすめです。相性が良い柑橘系のフルーツを入れてみるのもいいでしょう」

「最も自由で実験的で、イノベイティブなお酒」と三浦さんが言うように、一つのジャンルでありながら種類の幅が広いのがジンの魅力。選び方も型にとらわれず、いろいろなものを試して自分好みのジンを見つけ出す醍醐味を味わってみて欲しい。

(2022年9月6日掲載)

お話を聞いたのは●三浦武明さん

みうら・たけあき/株式会社フライングサーカス代表。「GIN FESTIVAL TOKYO」主催。世界30か国以上の料理と800銘柄以上のクラフトジンを楽しめる「TOKYO FAMILY RESTAURANT」(現在は休業中)などの飲食店を運営。さらなるジンの普及と発展を目指して、ジン専門アプリ「JUNIPER」をリリース。自身が手がけるジンブランド「Distiller M」も2022年秋ローンチ予定。
https://www.instagram.com/takeaki.miura/