物はできるだけ“しまう”のが、すっきりみせるコツ

料理が好きで、食まわりのあれこれをテーマとして活躍している白央さんは、築10年の3LDKマンションにパートナー(と、猫2匹)と暮らしている。
台所は、シンクと調理台、3口コンロが並ぶ、ファミリータイプのマンションによくあるオープンキッチンで、リフォームせずに、購入時のまま使い続けている。シンクや調理台の上下には収納スペースがあるものの、全体的にコンパクト。すっきりとして、清潔感がある。
料理研究家や料理に関する仕事をしている人のキッチンの多くは、さまざまなスパイスや調理器具、鍋類に囲まれていることが多いのだが、白央さんの台所は、物が少ないように見える。
調理台の上には、スパイスや油類、包丁立てといった、およそどの家庭のキッチンでも置かれていそうなものが、ない。
「常時置いてあるのは、まな板が数枚と、菜箸やへら類ですね」
棚にはレンジや炊飯器はあるが、ほかに目立った調理器具は見当たらない。冷蔵庫の上には雪平鍋が3つ重なっている。菜箸は3膳、お玉は2つ、計量カップは2つだという。料理を仕事にしている割には、調理道具は少なめではなかろうか? すると「凝った料理をしないから、これで十分なんです」と言う白央さん。
レイアウトや収納、家電のチョイスは、インテリアや整理整頓が好きなパートナーの方の担当だそうだ。
「物自体は多いんですよ。でも、連れ合いは“徹底的にしまう派”です。僕はもともとは調味料を出しっぱなしにしていたんですが、実際、ふだんは塩と黒コショウぐらいしか使ってないんですよね」




調理台の下にぽっかりと空間があり、そこには計量スプーンや酢、みりん、料理酒などが並ぶ。もともとここにはビルトインタイプの食洗器があったという。壊れたので取り外し、買い替えようかと思っていたが、費用がかさむこともあって断念した。だが思いがけないことに、このスペースが登板回数の多い調味料の収納スペースにピッタリ。俄然使い勝手が良くなったという。
「ふだん洗うのは二人分の食器ですし、結局、食洗器はなくても困りませんでした」
こまめな拭き掃除で清潔を保つ
油はねや、調味料の液だれなど、キッチン周りは汚れやすい。あとでまとめて拭けばいいや、と見て見ぬふりをしているうちに汚れがこびりついて掃除が大変、という人も多いのではないだろうか。
白央さんは、実にこまめに拭き掃除をする。気が付けば布巾を手にしてちょこちょこと拭いている。これも飲食店でのアルバイトで身に付いたという。
「飲食店って、ダスタークロス(使い捨て布巾)を使っているところが多いんですよ。うちも台拭きをやめてダスタークロスにしました」。台拭きだといくら洗濯しても、においが残ったりする。使い捨ての方が衛生的で、洗っても乾きやすい。
調理台の上に物を置かないのも、物があると拭きづらいから。“しまう収納”は、掃除のハードルを下げる効果もあるのだ。


料理する気持ちのハードルを下げる“安心のたね”
買い物はほぼ毎日するという白央さん。
「僕は、計画を立てて使い切れないんです。作り置きしても明日は違うものが食べたくなるし、料理するのがどうにも億劫な日もあるし、気分で飲みに行っちゃうこともあるし」
だから基本的に生鮮品はその日すぐ使うものしか買わないという。そんな白央さんも、もちろん常備しているものはある。
冷凍うどんと冷凍そば、きのこ、練りもの各種、油揚げなどは、冷凍庫で常備。パスタソースやカレーなどのレトルト品などもストックしているという。白央さんは、忙しかったり、疲れていたりする日にパパっと用意できるこれらを“安心のたね”と呼んでいる。
米と味噌は欠かせない

白央さんにとってマストアイテムは「ごはんと味噌汁」だという。「お米の種類は常に多い家だと思います」。取材日、白央家には、ふつうに精米した米と玄米、タイ米と雑穀、もち米があった。
味噌もあちこちで買うという。ふだん味噌汁に使うものは、合わせ味噌にしている。
冷蔵庫の使い方にもひと工夫
「調味料も一度開封したら、冷蔵庫に保存します」といって開けられた冷蔵庫のドアポケットには、調味料がずらりと並ぶ。実は白央さん、ドアポケットの卵入れはあえて外したという。
「同じ属性のものは、まとめておいたほうが使い勝手がいいので」
卵は冷蔵庫の棚にパックごと入れる。「鮮度が気になるものは、目に付くところに置きたいんです」。だから目に付きにくいチルドルームは、比較的保存のきくチーズや味噌などを入れるスペースに。自分の暮らしに合わせてフレキシブルにアレンジしているという。


作りたくない日は、作らない
「大人の二人暮らしだから許されることかもしれないけれど」と前置きして、「献立が決まらないとか、作る気になれない日は、その気分の波に乗るようにしています」という白央さん。
「しばらく作らないでいるうちに、作ろうって気持ちが溜まってくるんです」。どんなに料理好きでも、義務となると苦痛になる日もある。そんな日は無理しなくてもいいよ、と背中を押してもらった気がした。

お話を聞いたのは●白央 篤司さん
はくおう・あつし/フードライター、コラムニスト。暮らしと食、郷土料理やローカルフードなどをライフワークとする。著書に『はじめての胃もたれ 食とココロの更新記』(太田出版)、『名前のない鍋、きょうの鍋』(光文社)ほか。
X(旧Twitter)@hakuo416
取材・文●戸羽 昭子 撮影●米谷 享(2024年11月掲載)
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