世界遺産を生んだデザイナーが設計。空間を切り裂くようなフォルム

4枚の板をただつなげただけに見えるのに、そのミニマルなシルエットの斬新さに目を奪われる「ジグザグ(ZIG-ZAG)チェア」。前衛的な雰囲気だが、実は1934年に発売され、すでに誕生から90年の時を経ているというから驚きだ。
オランダを代表する建築家にしてデザイナーのヘーリット・トーマス・リートフェルトが設計した椅子で、同じくオランダの画家のモンドリアンが提唱した「新造形主義(デ・スティル)」という、直線の組み合わせですべての形態を造形するスタイルから影響を受けたとされている。
「類いまれな構造とデザイン性がジグザグチェアの特徴です。一見、座った途端に座面が落ちてしまいそうに見えるこの構造が成立しているのは、座面と脚、脚と底面の接合部を三角形の隅木で補強しているから」と話す西川さんは、リートフェルトが設計した世界遺産でもあるシュレーダー邸で、実際にジグザグチェアに腰掛けたことがあるという。
「正直、座るには向いていない椅子ですね。座面と背面の角度がほぼ直角で、2分も座っていると腰が痛くなります」
座ることが椅子の第一義であるはずなのに、座りやすいとは思えない造形をしているのは摩訶不思議。それにもかかわらず、名作椅子として90年も支持されている理由は何なのか。
「ジグザグチェアを置いた空間は非常に締まります。椅子単体ではなく、空間をデザインするインテリアとしての魅力が大きいと考えます。例えばジグザグチェアの上に本や花をただ置くだけでも、思わず目を留めるような存在感を放ちます」
座るという目的よりも、空間にあたえる存在感が時代を超えた支持を得ている名作椅子のジグザグチェア。ただ一方で、頑丈で座り心地も良いという意見もある。果たして真実は?
あなたも腰掛けて、その座り心地を確かめてみてはいかがだろう。

お話を聞いたのは●西川 栄明さん
にしかわ・たかあき/編集者。椅子研究者。椅子や家具に関すること、森林や木材から木工芸に至るまでの木に関することなどを主なテーマにして、編集執筆活動を行っている。著書に『新版 名作椅子の由来図典』『樹木と木材の図鑑-日本の有用種101』など。共著に『名作椅子の解体新書』『Yチェアの秘密』。
販売ブランド
Cassina ixc
https://www.cassina-ixc.jp/shop/g/gzig-zag/
※その他、全国の「Cassina ixc」店舗で購入が可能
文●柳澤美帆 撮影●Cassina ixc(2024年8月掲載)
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