薄手のガラスに浮かび上がる上品な揺らぎ
「ガラスの器は空中で息を吹き込んで作りますから、丸いものが圧倒的に多いんです。このような角形や円形というのはとてもめずらしいんですよ」
そう話す根本美恵子さんが紹介してくれた作家・谷口 嘉(たにぐち・よしみ)さんの器は、薄手の“金縁長方小鉢”と“金縁丸皿”。
「谷口さんの器は、コンクリートの型を用いて、その中にガラスを吹き込んで作成しています。ですからコンクリートの微妙な肌合いをガラスが拾い、上品な揺らぎの陰影が生まれます。それがとてもエレガントできれいなんですよ」
肌合いは触ってわかるというよりも、テーブルに落ちた微妙な影によって、はじめて鮮明になる。1点ずつ手作業で作られているため、ガラスの厚み、金縁の幅や質感にもばらつきがあり、それがかえって器の景色となって、味わい深い。
「ガラスの特徴のひとつは、薄く緊張感のあるエレガントさ。それぞれの作り手によって表現が違い、道具の先での作業はテクニックとセンスが必要な難しい素材ともいえます」
型吹きのためカットした部分を研磨し、切り口に23金を施した器は、使い込んだアンティークのような温かいニュアンスがある。夏の眩しい陽光や照明を受けて、壁や天井に広がる美しい虹や陰影が、改めてガラスの魅力に気づかせてくれる。


ガラスは日常使いこそが楽しい
「面白いのは、ガラスの方が焼き物より割れると信じている人が多いことです。一緒に落としたら焼き物も割れるのに、ガラスのほうが脆く見えるんでしょうね」
谷口さんの型吹きのガラスには大鉢や水差し、ピッチャー、花器といった大きな作品もある。そのどれもが繊細な薄手であることに変わりないのだが、不思議に安定感も持ち合わせていて、使い勝手がいい。
もったいないのは素敵なガラスの器やグラスを買っても、「割れるから」と戸棚の奥深く仕舞い込んでしまうこと。冷たい料理を盛る夏の器という印象が強いガラスも、事前に器を温めるなど、ちょっとした気配りをすることで、温かい料理にも使えるのである。ありあわせの肴を盛り込むだけで、焼き物の器とはまた違った生き生きとした表情にきっと驚くはずだ。むろん食器としてだけでなく、アクセサリー入れにしても、水を張って一輪の花を浮かべても、ガラスは独自の美を発揮してくれることだろう。

教えてくれたのは●根本 美恵子さん
ねもと・みえこ/東京出身。ギャラリー勤務を経て、2004年エポカザショップ銀座『日々』のスタートともにコーディネーターを勤める。2017年同店閉店後、2018年に今岡美樹さんと場所を新たに『銀座日々』として再スタートした。

『銀座日々』
東京都中央区銀座3-8-15 APA銀座中央ビル3階
TEL:03-3564-1221
営業時間:11時~18時
休:木曜
https://ginza-nichinichi.co.jp/
取材・文●瀬川 慧 撮影●宮濱祐美子(2024年8月掲載)
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