ライフデザイン

【名作椅子の理由】厚革をまとったアームレスチェアの佇まい

デザイン性に優れ、時代を超えて支持されている“名作”と呼ばれる椅子たち。多くの人を魅了してやまないのには、椅子の数だけ理由がある。『名作椅子の解体新書』の共著がある椅子研究者・編集者の西川栄明さんに、その尽きない魅力を聞いた。

上質な空間を演出する美しいシルエットのダイニングチェア

CAB412/販売価格:26万4000円~。W525×D470×H810。カラー展開は黒、マットアイボリー、コニャックなど国内在庫が6色、受注輸入色が10色(取材時)。1977年に発表された名作椅子。16のレザーパーツでつくられた厚革のカバーをフレームに着せたようにまとわせている。

背もたれから脚まですべてが牛革に包まれたキャブ(CAB)は、1脚ポンと室内に置くだけでも、その空間すべてをスタイリッシュに見せてしまう凛とした存在感を放つ。デザイナーはイタリアデザイン界の巨匠と呼ばれるマリオ・ベリーニ。日本との関係も深く、ヤマハのカセットデッキ、象印のポット、東京デザインセンター(五反田)の設計にも携わった人物だ。

「ベリーニは金属などを、なにかの素材で覆うという手法を時々用いるデザイナーでした。そんな流れで生まれた、一寸のたるみなくフレームに革をまとわせた椅子」と西川栄明さんが話すとおり、キャブ412はまるで、オーダーメイドスーツを身にまとった人のように美しいシルエットである。


西川さんは、キャブを解体し細部にわたって造りを検証。

「骨組みの金属フレームを革で覆うシンプルな作りですが、シャープなシルエットと柔軟性のある座り心地を実現するために、さまざまな工夫が凝らされています。サドルレザーという馬具に使われる牛のなめし革を10数枚縫い合わせ、4本の脚の内側にあるファスナーがあることでフレームにピッタリとまとわせてある。巧妙な裁断と縫製の技術によるものです」と話す。

また、人が座った際に背がしなりやすくするために、後脚から延びる背のフレームの先端にはプラスチック製の特殊なキャップが差し込まれてあるという。

「神は細部に宿る」

細かなところまで疎かにせず力を尽くせば、完成度が高まるという意味合いで使われる言葉だが、まさにキャブの造りはこの言葉を具現化しているかのようだ。細部に妥協せず、とことん美しさと機能性を追求したからこそ、1977年に発表されて以来、いまだ称賛され、数多く売れ続けている。日常生活に取り入れれば、それだけで「一日、一日をおろそかにせず良い人生につなげたい」、そんな想いに日々駆りたててくれるだろう。

お話を聞いたのは●西川 栄明さん

にしかわ・たかあき/編集者。椅子研究者。椅子や家具に関すること、森林や木材から木工芸に至るまでの木に関することなどを主なテーマにして、編集執筆活動を行っている。著書に『新版 名作椅子の由来図典』『樹木と木材の図鑑-日本の有用種101』など。共著に『名作椅子の解体新書』『Yチェアの秘密』。

販売ブランド

『Cassina ixc』

https://www.cassina-ixc.jp/shop/g/g412cab/

  • その他、全国の「Cassina ixc」店舗で購入が可能


文●柳澤美帆 写真●Cassina ixc(2024年6月掲載)

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