ライフデザイン

【暮らしを彩る器】清涼感を誘う、魅惑の氷結ガラス匣(はこ)

毎日の暮らしを心豊かに彩る器を集める『銀座日々』。工芸に造詣の深いギャラリストの根本美恵子さんと今岡美樹さんがセレクトする常設の器もさることながら、年間を通して開催される、作り手の想いが伝わる数多くの作品展にも胸が躍ります。夏の季節に活躍する、涼感溢れるさまざまなガラスの器を紹介していただきました。

テーブルの上で鮮やかな存在感を放つ、清涼の結晶

「四季を楽しむ日本の器の中で、ガラスは一際、季節感に左右される素材です。ガラスの器の作品展の開催が毎年3月以降に集中して行われるのも、目から感じる清涼感や、冷たいお料理を食べたくなる時季だからこそなんです」とは、『銀座日々』の根本美恵子さん。

富山県射水市のガラス作家・岸本耕平さん作の“氷結ガラス匣(はこ)”は、まさに名前のとおり、ふたつに叩き割った冷たい氷塊のイメージ。そこに在るだけで、ひんやりとした空気が流れてくるようだ。特徴的な表面のテクスチャーは、膠を塗布して乾燥させ、無機質なガラスに温かみを加える独自の手法によるもの。マットな質感の中にガラス本来の透明な部分が無作為に表れ、触れるとどこか温かさや懐かしさを感じさせる。手づくりによるその姿は唯一無二で、ひとつずつ形状が異なっている。

そうしたオリジナリティと革新性ゆえだろうか、食器として料理が映えるのはもちろんのこと、オブジェとしてテーブルの上にあるだけでも目を引く。昼は陽光に柔らかくきらめき、夜ともなれば室内照明やロウソクの炎を透かして、心地よい雰囲気を演出してくれるのだ。

枇杷ひとつ入れてもこのクオリティ。独自のアイデアで楽しめるのもガラスの器の魅力だ。
同じく岸本さん作の“削り角小鉢”。上げ底になっているため、ぐい呑みとしても。また小さな花器にしてもさまざまな表情を見せる。

光を透過するガラスの美しさ

ガラスの器を食卓に取り入れるコツは、セットで揃えるよりも大胆なピンポイント使いで印象を深めること。ガラスの器は、焼きものと上手に共存しながら、随所でその魅力を存分に発揮してくれる。冷蔵庫で器ごとしっかり冷やせば、高級珍味のキャビアやこのわた、雲丹にもよく似合う。蓋物は蓋を開けた時の驚きが楽しく、ぶどうや苺などのフルーツやチョコレートを忍ばせても楽しい。無骨な荒削りの肌からほのかに色が透けて見えるさまは、いかにも“美”といえる。

「お客さまには料理人の方も多いのですが、皆さん、ほかとは違う器を常に求めていらっしゃいます。この岸本さんのガラスの器も、ある日本料理人の方の注文から生まれたものなんですよ」

蒸し暑い日本の夏にふさわしい、重量感のある涼し気なガラス。その世界は日々進化し、独自の斬新な技法と想像を超えるデザイン、芸術性で私たちを圧倒する。ぜひ、現代工芸ガラスの世界を覗いてみてはいかがだろう。

お話を聞いたのは●根本美恵子さん

ねもと・みえこ/東京出身。ギャラリー勤務を経て、2004年エポカザショップ銀座『日々』のスタートともにコーディネーターを勤める。2017年同店閉店後、2018年に今岡美樹さんと場所を新たに『銀座日々』として再スタートした。

『銀座日々』

東京都中央区銀座3-8-15 APA銀座中央ビル3階
TEL:03-3564-1221
営業時間:11時~18時
休:木曜
https://ginza-nichinichi.co.jp/

取材・文●瀬川 慧 撮影●宮濱祐美子(2024年6月掲載)
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