乗馬初心者のライターが乗馬体験コースにトライ!
成田空港に近い富津市にある「乗馬クラブ クレイン千葉 富里」。ここには100頭もの元競走馬(サラブレッド)がいて、初心者から馬術競技大会を目指す人までが思い思いに乗馬を楽しんでいる。施設の1階は厩舎、2階は乗馬の準備をしたり休憩しながら馬たちを眺められたりする会員用のスペースで、清潔で快適だ。関東最大規模のこのクラブで「乗馬体験1回コース」にトライしてみた。
馬に乗った経験は観光牧場ていどで、ほぼ未体験。ドキドキしながらヘルメットやエアバッグベスト、ジョッパーブーツやチャップスという馬具を身に着け、馬たちの元へ。初心者向けのベテランだという12歳の雄馬タクティクスに乗せてもらうことに。お父さんは有名な競走馬のタイキシャトルで、タクティクスはまさに血統書付きのサラブレッドだ。間近で見てみると、その体躯は大きく、レッドブラウンの毛並みはつやつやとして美しい。


乗って走らせる前に、馬と触れ合う

乗馬の魅力は、なんと言っても馬という動物との触れ合いであること。乗る前にまず手綱を取って円形のコースを一緒に歩く。
「初心者向けの馬ではそんなことはありませんが、本来、馬は賢い動物なので、相手が気に入らないと『歩け』『走れ』という号令にも従ってくれません。名前を呼ぶなどしてコミュニケーションを取り、馬に信頼されるようにしてください」とインストラクター役を務めてくれたクラブクレイン本社営業部課長の多胡啓さん。
何周か一緒に歩いた後、いよいよ馬の背中へ。台の上から乗り上げるので、大人はもちろん子どもでも難しくはなさそうだ。しかし、いざ乗ってみると高さは160センチ以上、自分の座高も加えると視線の高さは2メートル以上にもなるので、見える景色はガラリと変わる。
姿勢はピンとまっすぐ!乗馬は有酸素運動だった
まずは馬をゆっくりと歩かせるところから。両足先で軽く馬の腹を叩くと歩き出し、手綱を引くと止まる。多胡さんによると「馬は人間で言うと肩車をしているような状態なので、なるべく重心がまっすぐかかるようにし、馬の負担を減らしてあげること」がポイントだとか。背筋をピンと伸ばし、うつむかないようにして視線は馬の頭のあたりへ。足もまっすぐに伸ばすので、この乗馬体勢をキープすると、筋肉に負荷がかかる。乗馬はひとつの有酸素運動として認定されている、れっきとしたスポーツだ。
次のステップは「速歩(はやあし)」と呼ばれるスキップ。馬が小刻みに走り出すと背中も揺れるので、集中して乗っていなければならない。その状態でコーナーを回ると、それなりの重力がかかり、バランス感覚が問われる。
「馬の動きに合わせてお尻を浮かせられるようになると、まさに“人馬一体”となって軽快に走れますよ」と多胡さん。「乗馬体験1回コース」でそこまでマスターできる人もいるそうだ。

忙しい日常生活からちょっと離れてリフレッシュ
「乗馬クラブ クレイン千葉 富里」の会員は1,500人ほど。その約70%が女性だ。首都圏全域から通ってきている人が多く、乗馬レッスンが終わった後も、馬をブラッシングするなどして、ゆっくりとした時間をここで過ごしている。
「皆さんにお願いしている馬の世話は水をあげるくらいでいいのですが、ブラッシングや掃除などは完全にボランティアでやってくださっています。馬を相手におしゃべりしたりして、ふだん、さまざまな業種で働いている方たちが忙しい日常生活からちょっと離れ、リフレッシュなさっているようですね。子育てがひと段落ついたママさんが、馬と触れ合って癒されることもあるようです」(多胡さん)
乗馬クラブに来ると、仕事や家事など、たくさんのタスクを慌ただしくこなす状態から一転、まるでエアポケットに入ったように、時間がゆっくりと流れていく。馬には人間の理屈は関係ない。吸い込まれそうに深い馬の瞳を見ていると、俗世間の憂さを忘れられそうな気がした。
「馬に無理やり言うことを聞かせることはできません。馬を相手にするときは、たくさんの部下がいる部長さんでも主婦の方でも同じ立場。みんな平等なんです」(多胡さん)
馬という特別な動物と過ごすぜいたくな時間。人生を豊かにする新しい趣味を求めるなら、乗馬はうってつけの選択肢になるだろう。
(2023年7月25日掲載)
取材・文/小田慶子 撮影/市来朋久