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ブルガリアワインに魅せられた、或るバイヤーの話

嬉しい日には、普段よりも素敵なワインで乾杯しませんか?ストーリーのあるワインは、特別な一日を演出します。今回は、ブルガリアとの深い縁から、ブルガリアワインを専門に扱う、或るバイヤーのエピソードをご紹介します。

海外駐在で見つけた運命のワインと生涯の伴侶

ヨーロッパ南東部、バルカン半島に位置するブルガリア。ブルガリアはヨーグルトやブルガリアンローズが有名ですが、古代トラキア人が数千年前からワイン造りを行なっていた伝統ワイン産地でもあります。今回は、縁あってブルガリアのワインの魅力にどっぷりハマり、ブルガリアワインを輸入する専門商社「トラキアトレーディング」を立ち上げた岡崎岳志さんにお話を伺いました。

ワインと出合うキッカケは?

学生時代は柔道をやっていたので、体育会系にありがちな、一気飲みでビール、日本酒、チューハイを飲む、というスタイルでした。卒業後、会社員になり、1993年に百貨店のミュンヘン支店に赴任すると、売り場に並ぶドイツワインを口にする機会がありました。ラインガウ地方の生産者のワインでしたが、こんなに美味しいものがあるんだと驚き、ワインに目覚めました。

ドイツから、なぜブルガリアワインに辿り着いたのですか?

ドイツワインも色々と飲みましたが、せっかくヨーロッパにいるのだから、他の国にも行ってワインを飲んでみようと思い、休暇の時にあちこち出かけるようになったんです。ドイツ南部に位置するミュンヘンからは各方面に足を伸ばしやすく、4年間の駐在中にさまざまなワイン産地を訪問しました。そうした中、ブルガリアでワインを飲むと、素朴なうまみがあり、ブドウ本来の味を感じるワインが多いなぁと、強く印象に残りました。

ブルガリアへの想いを熱く語る岡崎岳志さん。

ブルガリアワイン専門の輸入会社を立ち上げたターニングポイントは?

ブルガリアの旅先で、ひとりのブルガリア人女性に出会いました。彼女は後に上智大学に国費留学し、卒業後に日本で結婚しました。実は、それが私の妻です。そうしたこともあり、ブルガリアの商材を扱いたいという思いが年々強くなっていきました。そこで一念発起し、会社を退職してトラキアトレーディングを立ち上げました。2011年4月のことです。東日本大震災の直後で、物流が難しい状況の中でのスタートでした。

トラキアトレーディングで扱っているワインはどんな特徴がありますか?

素朴でブドウのうまみを感じさせるワインを探していた時に、ピッタリはまったのが、トラキア・ヴァレーの「カタルジーナ」というワイナリーでした。白い土壌で砂と粘土が混じり、ブドウ栽培に適した場所でワイン造りを行なう新進気鋭の大規模ワイナリーです。4アイテムからスタートし、現在、当社はカタルジーナの日本の総代理店になっています。
 
基本的にはこだわりの小規模家族経営ワイナリーを選び、最新では、カタルジーナを含む4ワイナリー、45アイテムを扱っています。豊潤な果実味とナチュラルなブドウのうまみを特徴とするトラキア・ヴァレーのワインが多いです。

トラキアトレーディングで扱っているワインはどんな特徴がありますか?

ブルガリアのワイン産地は、トラキア・ヴァレー(南部)/ドナウ平原(北部:ドナウ川からバルカン山脈にかけての地域)/黒海沿岸地域(東部)/ローズ・ヴァレー(中央部:バルカン山脈山麓)/ストゥルマ・ヴァレー(南西部:ストゥルマ川渓谷流域)の5つがあります。
 
産地によって、地形、標高、地質、気候などが違い、ワインのスタイルも違ってきます。産地の違いが認識されるようになってきたのは2010年頃からで、それまでのブルガリアワインの日本への輸出は、バルクワイン(大容量容器詰めワイン)が主流でした。近年は徐々にボトル詰めワインが増え、2011年では年間6万本だったのが、2021年は60~70万本に輸出量が増加しています。なお、ワイナリー数は約270軒で近年家族経営のブティックワイナリーが増えてきているのが特徴です。

地場品種のワインに注目が集まっていますが、ブルガリアでは?

代表的なものとしては、古代トラキア王が飲んでいたとされる、トラキア地方の黒ブドウ「Mavrudマヴルッド」。トロイア戦争について書かれたホメーロスの「イーリアス物語」の中で登場しています。黒ブドウでは、「Gamzaガムザ」や「Pamidパミッド」、白ブドウでは「Tamiankaタミアンカ」などがあります。「Rubinルビン」は20世紀にブルガリア北部で誕生した交配黒ブドウ品種(シラー×ネッビオーロ)で、ポテンシャルが高く、ここ10年で増えてきた注目品種です。
 
ブルガリアでは1989年の民主化後、1999年にワイン法が成立しました。ワイン造りの歴史は長いですが、近代化されてからの歴史がまだ浅いブルガリアでは、国際品種で勝負したいと考える造り手が多くいます。

ブルガリアワインとブルガリアの魅力とは?

ブドウの自然なままのうまみがあり、肩に力が入らずに飲めるのが、ブルガリアワインの最大の魅力です。また、6000~7000年前からのワイン造りの歴史も興味深いものがあり、カタルジーナの近くあるペルペリコン遺跡にはワイン神のディオニッソス神殿があり、ワイン占いが行なわれていました。森の奥深くに佇むユネスコ世界遺産のリラの僧院や山上に7つの湖が散在するリラ国立公園など、豊かで美しい自然に出合えます。旅するなら、春から夏がベストシーズンです。
 
ブルガリアは食も豊かで、野菜料理、煮込み、肉のうまみを活かした料理、ヨーグルトを使った料理など、さまざまなものがあります。ブルガリアでは食とワインは連動していて、両者は合わせて楽しまれています。

ちょっといいことがあった時に開けたい、お勧めのワインを教えてください。

1本目は、「カタルジーナ マヴルッド2017」(中央/5,000円)。土着ブドウのマヴルッドを使った最上級キュヴェで、果実味があってエレガント、うまみがジワジワと感じられるフルボディの赤ワインです。サーロインステーキなどの肉と合わせて、記念日にいかがでしょうか。
 
2本目は、トラキア・ヴァレーに2005年に設立されたロシディの「ロシディ オレンジ2019」(左/4,200円)。ゲヴルツトラミネール100%のオレンジワインで、陶器ボトル入り。ロシディはイタリアの名醸造家アンジェロ・ガヤ氏と親交があり、将来はブルガリアのアンジェロ・ガヤ?との呼び声もある期待の造り手。このワインはワイン専門誌でブルガリアNo.1オレンジワインに選ばれています。春の野菜や白身魚の天ぷらを塩で、といった和食にお勧めで、母の日や父の日など家族が集まった時にもピッタリなワインです。
 
3本目は、「クベラ ラズベリーワイン」(右/3,500円)。ローズ・ヴァレーの標高450mにある自社農園で育てられたオーガニックのラズベリー100%を使い、ワインと同様に醸造された珍しいラズベリーワインです。セミスイートのナチュラルな甘さで、甘辛の手羽先、ウナギのかば焼き、中華料理などと相性が良く、屋外で氷を入れて、休日にテラスなどで楽しむのもいいですね。食前食後に飲むのもお勧めです。

ブルガリアワインの今後は?

ブルガリアワインは、旧ソ連時代にソ連、ポーランド、ドイツなどの近隣に輸出されていましたが、民主化後は輸出範囲が拡大し、日本にも輸出されるようになりました。日本市場で紹介される場合、残念ながら「その他の産地/Others」とされることが多かったです。しかし、ワインの重要市場であるイギリスでは、著名評論家がブルガリアワインを高く評価し、世界的な評価が高まってきています。今後は、自分が架け橋となって、ブルガリアワインを日本で開花させ、しっかりとブランド化させたい、と思っています。

なお、ブルガリアワインの輸入に際し、頼りになるのはブルガリア人の妻です。ワイナリーとコミュニケーションを取る際、同国人ならではの細かいニュアンスや言葉の裏側などを妻が伝えてくれます。妻あってこそ、と、感謝しています。

歴史あるワイン文化と古代遺跡、美しい自然、豊富な食と、魅力満載のブルガリア。その光景を思い浮かべながら、岡崎さんと奥様が二人三脚でセレクトしたワインを飲んでみたくなりました。素敵なお話をありがとうございました!

※取扱いワインは、トラキアトレーディング公式オンラインショップ(全アイテム)、高島屋オンラインのほか、新宿タカシマヤ、新宿伊勢丹などで販売

聞き手:綿引まゆみ(ワインジャーナリスト)
写真:大村洋介

お話を聞いたのは●岡崎岳志さん

株式会社トラキアトレーディング 代表取締役。
東京都出身。学習院大学法学部法学科卒業。百貨店勤務後、独立。2011年4月トラキアトレーディング設立。
 
トラキアトレーディング 公式オンラインショップ
https://trakiyatrading.net