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人気の機内食お取り寄せ!ANA担当者が語る「おいしさのワケ」

未だ自由に旅行することもままならない今、注目を集めているのがお取り寄せできる「機内食」。自宅にいながら、機内でしか味わえないおいしさをそのまま届けてくれると評判のANA(全日本空輸株式会社)。同社で機内食に携わるCX推進室 商品企画部の中谷俊さんに話を伺うと“味覚”だけではないこだわりが浮かび上がった。

空間を含めて楽しめる“体験価値”を提供

2020年12月にANAが販売を開始した機内食の取り寄せ。これまで搭乗者が上空でしか食べられなかった食事を、誰もが地上(自宅)で味わえるというアイデアは斬新で、瞬く間に注目を集めた。販売を開始した背景にはこれまで提供してきた商品に確固たる自信があったという。
 
「当社ではこだわりをもって機内食を提供しています。しかしコロナの流行によって旅客数が減り、食べていただけない状況。自慢できる宝を持て余していました。これを他の形で提供できる手段はないかと考えたことがきっかけです」
 
コロナ以降、旅をしたくてもできない人々の心に刺さり、販売後の影響は大きかった。普段の食事の一品として楽しむだけではなく、SNS上ではハッシュタグ「#機内食ごっこ」が発生。自宅で機内を模した環境を作って機内食を楽しむなど、食に加えて空間そのものを楽しむ投稿が多かった点も特徴的だ。
 
「空の旅や空港、機内での体験を恋しいと思われる方の声にお応えしたいと取り組んだ結果かもしれません。当社は食品会社のような機能はあるものの、いわゆる食品会社ではありません。“体験価値を含めてお届けしたい”私たちの思いと、“旅気分を味わいたい”お客様のニーズがマッチしたと感じています」

「ANA国際線エコノミークラス機内食メインディッシュ 機内食総選挙歴代王者の集い」。現在は同様のものは販売していません。

地上とは異なる環境に応える“人の手”とオリジナルの工夫

シーズンごとに異なる機内食のメニューを企画するANA。何よりも大切にしているのは「お客様の喜ぶ姿」だ。寄せられた意見には真摯に耳を傾け、改善を重ねてメニューを開発する。その際、ポイントとなるのは、状況に適した楽しみ方。地上とは違う環境が食事に与える影響は想像以上に大きい。
 
「機内は年中変わらない景色で、なかなか四季を感じにくいものです。食事で季節を感じていただきたいとの思いをもって食材を選定しています。薄暗い照明でも、彩りや配置などを考慮し、見た目から楽しめる工夫が欠かせません。また、機内の揺れに耐えられることも大切な要素。ソースの濃度や具材の切り方にも注意を払っています」
 
地上よりも乾燥している機内。気圧や湿度の関係もあり、味覚が鈍りやすいという。しかし、過剰な塩や添加物などを加えることはせず「食材本来の旨みを引き出す出汁」などでメリハリをつけ「素材が持つ味を生かす味付け」を追求している。
 
「ひとつずつ食材を味わっていただきたい。口に入れた瞬間に食べたものがはっきりとわかるよう、食感も大切にしています」
 
機内食と地上のレストランでは、提供のタイミングも異なる。機内食は前日に地上で手づくりして、急速に冷蔵。「上空においてベストな状態で提供できる」よう逆算して用意している。
 
「食材の特性を考えたうえ、冷凍ではなく“冷凍に近い冷蔵”で保存。例えば、冷凍した刺身は解凍した際に水分が出てしまい、食感も味も変わってしまう。また、例えばオムレツは、機上で熱を加えた時にふんわりとした食感を味わっていただけるような計算をして調理しています。お肉も同様です」


味覚に加え、視覚、食感などトータルバランスを考え抜いた結果、すべての料理は手作業。「条件の変化に応える食を作り上げるには人の手が必要」だからだ。
 
ファーストクラスとビジネスクラスでは、食のプロ集団「THE CONNOISSEURS(ザ・コノシュアーズ)」プロデュースの食も展開。国内外の名店シェフやANAのトップシェフ陣が匠の技をふるう。機内提供の難しさを知る中谷さんは、機上でも同じおいしさを再現できることをイメージしながら数々の店を訪れるという。

「おいしさは当然ですが、そのお店のシェフのこだわりや考え方などにも目を向け、私たちの思いと合う方と一緒に、お客様に喜んでいただける機内食作りに挑戦しています」

お取り寄せ商品としても販売しているビジネスクラス機内食。

「地上でもおいしい」を前提に、シェフと作り上げる

 同社のお取り寄せ機内食の特徴は「機内で提供する食事と全く同じもの」であること。地上用にアレンジはしていない。機内環境を考慮して作られる食事だが、同社のこだわりはここにも現れる。
 
「前提にあるのは“地上でもおいしいこと”です。機内でのおいしさや楽しみを探求していますが、試作は地上。環境の違いはあれど、地上でもおいしいことを前提に本質を追求し、自信のあるものを提供しています」
 
提供のおよそ1年前からメニュー策定を始め、食材を調達し、信頼できるシェフとともに作り上げる機内食。お取り寄せ販売開始から約1年が経った今、商品ラインナップの拡充にも力を入れているという。
 
「一番人気は国際線エコノミークラスの機内食ですが、ANA総料理長・清水誠こだわりのスパイスの効いたカレーや、ANAペストリーシェフ・相田紀昭が手掛ける季節のフィナンシェ、両シェフが開発したANAオリジナルハンバーグステーキとブレッド、デザートをセットにした国際線ビジネスクラスの機内食も好評です。また、大分県の名産であるかぼすを使ったANAオリジナルジュースは、酸味がほどよく、CA(客室乗務員)にも人気ですね」

同社では機内食だけでなく、機内で使用される食器やグラス、寝具なども販売している。出張や旅行など空の旅がむずかしい現在――我流の“機内食ごっこ”でちょっとした機上気分を楽しんでみてはいかがだろうか。

ANAラウンジ提供 オリジナルチキンカレー

ANA FINDELISH フィナンシェ

「香るかぼす」はちみつ入り

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お話を聞いたのは●中谷俊さん(全日本空輸株式会社 CX推進室 商品企画部 サービス推進チーム)

2009年の入社後は、旅行代理店への座席販売や修学旅行の取り込みなどの営業を担当。数年後、客室乗務員(CA)として3年間、国内線、国際線を問わず全路線を飛び回る。その後はCAの経験を生かし、機内サービスの手順決めやマニュアル作成の業務に従事。現在は機内サービス全般の企画担当として、新しい商品やサービス内容の立案から、機内食やドリンクのメニュー、機内で使用する物品の選定に加え、機内食を含む機内サービス品の販売まで携わっている。