国吉 純(くによし じゅん)
- 有限会社ジュリエッタ・ガーデン代表取締役
- 東京テクノホルティ園芸専門学校非常勤講師
- グリーンアドバイザー資格認定講師
「楽しく簡単に華やかに育てる」をモットーに、園芸講座、執筆、造園など、幅広く活動し、植物に触れて育てる楽しい暮らしを提案している。著書に「キッチンガーデンのミニミニ菜園(成美堂出版)」、「想いを贈る花言葉(ナツメ社)」がある。
トピアリー豆知識
トピアリー(topiary)はラテン語のTOPIA(刈り込む)が言葉の起源と言われ、古代ローマ時代のある庭師が、生け垣に自らのイニシャルを刈り込んだことがはじまりとされています。16世紀以降のヨーロッパでは、王や貴族の宮殿においてトピアリーが流行し、様々な技法が発達しました。20世紀に入ると、立体フレームや水苔を用いて作成する、刈り込み以外の技術がアメリカで開発され、アメリカでのトピアリー人気が高まりました。最近では日本でも、教室やコンテストが開かれるなど、人気が広まりつつあります。
トピアリーの演出効果
綺麗に刈り込まれた鉢植えトピアリーを玄関先やベランダに飾ると、フォーマルでみどり豊かな空間を演出することができます。玄関の左右にシンメトリーになるように同じ鉢を配置したり、整列して並べると、一層フォーマルな印象になります。ガーデニングのアクセントとして雑貨を取り入れる方は多いと思いますが、手づくりのぬくもりが感じられるトピアリーでオリジナリティ―溢れる空間を演出してみましょう。
トピアリーづくりの予備知識
トピアリーをつくる前に知っておいて欲しいことが2つあります。
1つめは、トピアリーは完成までには時間がかかるということ。植物を最初に用意した段階で、枝葉が密集したものを手に入れられることができれば、完成までの時間は短縮できますが、その様な状態のものはなかなか手に入らないことが多いので、植物の成長とともにメンテナンスを行いながら完成させていくことになります。
2つめは、つくり方に特に決まりがないということ。ハサミだけを用いて、植物の成長とともに作成したい形に剪定をしていく方法もありますし、トピアリー用フレーム=植物に被せて使用するフレームを利用して、はみ出してきた箇所を剪定していく方法もあります。その他に、剪定の際のガイドとして、針金で作成した輪を利用してつくることもできます。(比較的簡単な球形を作る時によいでしょう。今回紹介する方法です。)
いずれの方法で作成する場合であっても、植物によってトピアリーに向き不向きがあるので注意しましょう。
<植物の選び方 / トピアリー向きの植物>
トピアリーには常緑樹が向きます。特に枝が密に生えて、葉が小さく、刈り込みに強い植物、例えばコニファーやツゲ、イチイ、ゲッケイジュ、マートル、ホーリー、オリーブなどが最適です。はじめて挑戦するという方は、ある程度密に葉が茂り大きく育っている常緑樹をなるべく選びましょう。今回は球形のトピアリーをつくるので、軸となる主幹が出来る限り曲がりのないまっすぐなものを選びます。
<鉢の選び方>
トピアリーにする植物の背の高さと枝葉のボリュームに合わせ、安定感のあるものがおすすめです。トピアリーが引き立つように、すっきりとした形や色、模様に考慮して選択すると良いでしょう。飾る位置のイメージと、鉢の数も考えて準備しましょう。
鉢植えの球形トピアリーをつくってみよう!
準備した植物の状態にもよりますが、つくりたては枝葉がまだ十分に茂っておらずすっきりした印象になると思います。じっくり育てることで、右写真のような綺麗な球形になります。今回は、寄せ植えを施して華やかさをプラスしてみました。
用意するもの
上から時計回りに
- 鉢
- マートル(ギンバイカ)
- 寄せ植え用植物 <右からペチュニア、リシマキア(シューティングスター)、アイビー>
- 長い棒(支柱や菜箸でも可)
- 針金(少し固めがよい)
- 土すくい
- 化成肥料
- 鉢底石
- 培養土
- 鉢底ネット
- 剪定ばさみ
手順
(1)鉢底に鉢底ネットをセットし、鉢底石を底が見えなくなる程度まで入れる。
(2)培養土を入れる。少し入れたらマートルをポットごと鉢の中に置いて、鉢の縁から土表面までが1.5cm位下になるように土の量を調整する。
(3)化成肥料を培養土に混ぜる。化成肥料はゆっくり長く効くタイプの肥料なので、培養土に混ぜることで栄養を持続させることができる。また、ペチュニアのように肥料を好む植物を寄せ植えに使う場合には、肥料が切れないように気をつける。
※量の目安:4号鉢/4g、5号鉢/8g(小さじ1が4.5g、女性の手でひとにぎりが約20g)
(4)マートルの根本から球形に刈り込む位置の間に生えている枝を剪定する。枝の切り口が残らないように切り落とすことで、そこから枝が生えなくなるので丁寧に切り取る。
(5)剪定のガイドとして使用する、針金の輪をつくる。完成時のサイズをイメージして大きさを調整する。色々な角度から輪をマートルに当ててみて、輪から飛び出して見える枝葉を剪定していく。
輪を植物にぴったりとくっつけて剪定すると、刈り込み過ぎてしまうことがあるので、少し離して作業するとよい。
※植物と輪の距離感は、下記の「鉢植えトピアリーのメンテナンス」を参照。
[POINT] 剪定の位置に気を付けましょう
枝を剪定する際は、葉の付け根から切り落とします。葉と葉の中間あたりを切らないように注意しましょう。葉と葉の間を切り落としてしまうと、残った枝から病害虫が入り、枝が枯れてしまう原因となります。
(6)マートルをポットから取り出し鉢に入れ、培養土を足す。長い棒で培養土をつつきながらすき間なく土を埋めていく。寄せ植えの植物が入るスペースを考慮して、培養土はマートルの土表面から5~6cm下あたりまで入れる。
(7)寄せ植えの位置を決める。まず、寄せ植えをポットのまま、鉢に配置してく。色やバランスを見ながら行うとよい。
(8)位置が決まったら、寄せ植えの配置がわかるように順番に鉢の周りに取り出す。
[POINT] 根を広げてあげましょう!
根はぐるぐる丸く巻いてしまう習性があります。その結果、根が密集して固くなり、十分な水や空気を取り入れることができなくなるため、忘れずに行ってください。
(9)寄せ植えをポットから取り出し、根の部分を少しほぐして広げる。小さなポットに収まっていた根は固く丸まっていることが多い。
(10)寄せ植えをすべて鉢に戻したら、すき間に培養土を埋めていく。ここでも長い棒を使ってつつきながら空間ができないように土を詰める。
(11)寄せ植えが終わったら、3回に分けて水をたっぷりあげる。まず1回目は鉢底から水が流れ出るまであげる。2回目は、しばらく待ってから、再び水が鉢底から流れ出てくるまで与える。鉢全体に水を行き渡らせるイメージで行うとよい。3回目も、しばらく待ってから水が底から出てくるまで流し入れる。酸素を送り込んであげるイメージで与えてみよう。
(12)完成!
本来の完成までにはまだまだ時間はかかりますが、ひとまず基本の形は完成です。
[POINT] 剪定の位置に気を付けましょう
今回用いたマートルの枝葉の状態だと、完成までに約2年間はかかります。その間、枝は太く長く成長し、葉が茂ってきますので、剪定、水やり、害虫駆除などのメンテナンスを怠らないようにしましょう。マートル(ギンバイカ)は芽吹くのが早く病気や害虫に強いのでトピアリーに向きます。また、5月~7月は可憐な白い花を咲かせるので、トピアリーが完成するまでの間、より目を楽しませてくれます。
鉢植えトピアリーのメンテナンス
剪定
今回つくったトピアリーの場合は、針金の輪を少し離した位置で当ててみて、枝が輪からとび出て見える部分を剪定します。植物と輪を近づけ過ぎて刈り込み過ぎないように注意します。
トピアリー用フレームで作成した場合は、枝葉がフレームからはみ出してきたら、その都度こまめに剪定します。
日光、水やり
日当たりの良い場所で育てます。水やりは、寄せ植えをしている場合は寄せ植えの花がしんなりしてきたら与えます。基本的に、季節を問わず早朝にあげるとよいでしょう。夏の暑い時期は、夕方に、葉にじょうろのはす口(シャワー状の注ぎ口)を使ってさっと水をかけてあげ、鉢の周囲に水を撒いてあげてもよいでしょう。放射冷却で周辺の熱を冷ますことができます。常緑樹だけ植えた場合は、植物の種類によって異なりますが、葉がしおれてきたり、極端に土が乾燥してきたら、表面だけでなく鉢底から流れ出るまでたっぷり水をあげましょう。
病・害虫対策
常緑樹は種類によってつきやすい害虫が異なります。今回使用したマートルは比較的病害虫に強い常緑樹ですが、寄せ植えに虫がつきやすいのでこまめにチェックしてあげてください。いずれの場合も、見つけたら大量に増える前に、園芸用の殺菌・殺虫剤で退治してください。
★慣れてきたら色々な形に挑戦してみよう!
動物などの少し複雑な形もフレームを使えば比較的容易に作ることが可能です。すでに整形されているさまざまな型のフレームが市販されているので、お好みのものを探すのも楽しいでしょう。ホームセンタ―等で取り扱っているのでチェックしてみてください。
色々なトピアリーの紹介
●文字
アルファベットを刈り込んだトピアリー。庭先や玄関先に、名前のイニシャルを飾れば、大きな表札のようで訪ねてくるお客さまを楽しませてくれます。
●動物
子供たちが喜ぶこと間違いなしの動物トピアリー。置いてあるだけで賑やかで楽しい雰囲気になります。
●幾何学模様
幾何学模様のトピアリーはよりフォーマルな印象を与えてくれます。数本を並べて配置すれば生垣として利用できます。
取材協力:有限会社 小林養樹園~みどりの美術館
トピアリーの造詣が深い海外の生産地や庭園を巡り、日本に適したトピアリーの生産から販売を手掛ける。東京都立川市には20,000m2もの広大な樹木見本園があり、様々な種類のトピアリーのほか、国内外の低木、高木、花木、コニファー、グランドカバーなどを多数取り扱っている。また、製作体験やレンタルなども行っている。
住所:〒190-0034 東京都立川市西砂町4-1-3
TEL 042-531-0123
休園日:日曜日、祝日(GW、夏季、年末年始も休園日となっているため、来園の際は事前に問合せてください)