香川県の魅力がにじみ出た、“瀬戸内ブルー”が輝く「Aji Glass」

どこまでも透き通る、溜息が出るような青。「手に取った方が、香川県に想いを馳せられるように」。そう願いが込められたこのガラス製品は、まるで陽の光を浴びた瀬戸内海の水面を彷彿させる輝きを放つ。材料は、ガラス原料と香川県高松市庵治町の五剣山から採掘される庵治石(あじいし)のみ。ひと目で魅了される、このガラス作品の製作者・杉山利恵(すぎやま・りえ)さんにお話をうかがった。

初めてこの色を作れたとき、「奇跡だ」と思って涙がこぼれた。

——希少性の高い墓石の原料として有名な庵治石から、まさに海のような色合いが生まれるとは信じられませんでした。どのように作っているのですか?

杉山さん 石材業者さんが製品を作る際に出た石粉をゆずってもらい、ガラスに配合しています。人工的な着色剤を使っているものではなく、完全に庵治石だけでこの色を表現しています。約1300℃程の窯で溶かすと、ガラスの粉と庵治石の石粉が混ざり合いながら化学反応を起こし、このような青色になります。最初のうちは配合の仕方もわからず、グレーになってしまったり、発色が綺麗でなかったりと何度も失敗をしました。およそ2年、100回以上は試作を繰り返しました。

——とても長い時間をかけて生まれたのですね。その過程でもっとも大変だったことは何ですか?

杉山さん 香川県にゆかりのある庵治石を使ってガラスを作ると決め、青い色を出すまでの時期が一番大変でした。最初はやり方がわからず、庵治石の石粉が全然溶けずに、ただのグレーの物体になることが続いたんです。庵治石を材料にするのは無理なのかな、と諦めかけていたときに、当時通っていた専門学校に材料学に詳しい先生が特別講師で来たことが転機になりました。その先生に頼み込んで一緒に試行錯誤をしていたら、あるとき、おはじきのようにとても小さな薄い青色のガラスができたんです。「ちゃんと庵治石が溶けているよ。これはきっと青いガラスになるね」と先生に言われた瞬間、鳥肌が立ちました。「それって、瀬戸内海の色で香川の色だ」と実感したんです。それからさらに研究を重ね、ようやく初めてこの色が出たときは、涙が出ました。本当にきれいに色が出てくれて。「こんなに感動するのは、私だけなのかな。ほかの人はどう思うのだろう」と確かめたくて、香川県の県産品コンクールに出してみたら、賞をいただきました。受賞作品を披露する展示会で多くの人に見てもらえる機会があったのですが、来場者の皆さんが私以上に感動してくださったことが忘れられません。「石からこんな素敵な色が出るんだ」「この色は本当に、瀬戸内海そのものだね」と言われたときに、私はこれからもAji Glassを作り続けてもいいんだな、と自分の使命を実感できたんです。

——Aji Glassの青のやわらかい輝きは、見る人の心を癒す力があると感じました。本日取材をさせていただいているこのアトリエは、たくさんのAji Glassに囲まれていて、神聖な感じがします。

杉山さん 嬉しいです。アトリエに入った瞬間、皆さん「うわー!」と感嘆の声を上げてくれます。それだけで、あぁ良かったって思います。「ずっといられる、この場所」とか「浄化される」と言われると報われた気持ちになります。やっぱり、天然のもので作られた色の力が、一番人を惹きつけると思うんです。人工的に染めた布よりも、やっぱり草木染めの方が優しげで気持ちが和らぐじゃないですか。ガラスにも同じことが言えると思っています。この青も、単純な「青」ではなくて、化学反応によって色んな色がブレンドされて表現された色。それは何千年も眠っていた庵治の土地の地層が生んでくれた色で自然の恵みから生まれたものです。だからこそ、これほどまでに透明感があって、人の心をつかむ色味になるんですね。

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幻想的な青が輝くAji Glassで囲まれたアトリエは、一目見た瞬間に息を飲むほど美しい。Aji Glassの製品に型はなく、すべて杉山さんの手によって作り出された、世界に一つだけの作品だ。

香川で育った私が作ったものなら、
香川がにじみ出るに決まっている。

——杉山さんが、Aji Glassを作るに至った経緯を教えてください。

杉山さん 子どものころからガラスが好きで、ビー玉やワインボトルなどを集めたりしていました。でも、職業にする選択肢は特に考えつかなくて。ガラス製品は工業製品というイメージがあり、縁遠いと思っていました。あるとき、香川にも工房があることを知って、運命を感じたんです。そこから、職業にすることを目指して、専門学校に通いはじめました。

——そのときの経験が、いまの杉山さんの作風に影響を与えられているのですか?

杉山さん 専門学校時代では、驚きの連続でした。一番衝撃を受けたのは、同じ課題を出されても、作る人によって出来上がるものが全然違うこと。たとえば「正四面体を作る」というシンプルなテーマでも、その人の性格を知っていたら、どの作品を誰が作ったかすぐわかるというくらい表現に出るんですよ。それに気づいたときに「たとえありふれた形を作っても、私が作ったものは私のものにしかならない」と確信したんです。個性は意識して出すのではなく、にじみ出るものなんだなと。

——そのうえで、杉山さんがAji Glassはどんなことを表現しているのですか?

杉山さん 作品に自分のパーソナリティが反映されると気づいてから、自分自身について深く考えてみました。すると、私は香川のものを食べてここまで育ってきたという気持ちが強く沸いたんです。私のルーツは香川にあるのであれば、私の作るガラス作品にも香川のものを食べさせようと思いました。だから、香川県の庵治石を材料として使うことを選んだんです。私の作った作品から香川の空気が出ていたらいいなと思っています。そして、手に取った人に「香川ってこんなところなんだな」って知ってもらえたらいいなと思っています。

杉山さんの作るAji Glassは、タンブラーやワイングラスをはじめ、一輪挿しやプレート、小鳥のオブジェなど多岐にわたる。ガラスが厚いところは青色が濃くなり、繊細なグラデーションが生み出される。

瀬戸内海に想いを馳せる、一瞬が作れますように。

——Aji Glassを手に取った人に、どのように使ってほしいと思いますか?

杉山さん 香川県の人に手に取ってもらった場合は、使うことで地元を思い出すひと時が生まれたらいいなと思います。そして、ホッとしてもらえたら。瀬戸内海ってこんな感じだよね、穏やかな波ってこんな感じだよねと。改めて香川県のいいところを認識してもらえたらと思っています。県外の人は、このガラスを見て「香川県ってこういう空気を帯びているんだな」とか「瀬戸内海の色ってこんな色なんだ」と思いを馳せてもらえると嬉しいです。香川県に来たことがある人には、「香川県の雰囲気ってこんな感じだったな」と思いだしてもらえるように作っています。Aji Glassが、そういうきっかけが作れる道具になれたらと思っています。

——Aji Glassの色は“瀬戸内ブルー”と呼ばれるように、やはり瀬戸内海を彷彿する人が多いのですね。
 
杉山さん 実は、このグラスを瀬戸内海に持って行って、海の色と比べてみると全然違うんですね。Aji Glassの青のほうが濃いんです。それでも、香川の人はAji Glassを見て「ああ、瀬戸内海だ」と思ってくれるんですよね。不思議です。でも、そのように、香川県に縁のあるものを連想してもらえるということは、私がやりたかったことが表現できているんだなと思います。

水と氷を注ぐと、Aji Glassは新しい表情を見せる。水の表面にグラスの青みが反射し、縁取る。注がれた水が、陽の光を浴びて輝く瀬戸内海の水面のようだ。

——最後に、2020年夏頃に生まれたOlive Glassについて教えてもらえますか?

杉山さん Aji Glassは庵治石を使って青色を出していますが、Olive Glassはオリーブ枝葉と実を使って、この緑色を表現しています。ただ、この色合いを出すのがとても難しくて。配合する枝葉の比率や火加減によって、とても濃い抹茶色になってしまうこともあれば、灰色になってしまったり、かえってまったく色が出ず透明になってしまったりするときもあります。非常に不安定なのです。そのため、現在は完全受注生産にさせてもらっています。香川県はオリーブの名産地でもあります。やはり、このOlive Glassを通して香川県を想ってもらえたらいいなと願っています。

 

(宮脇慎太郎=撮影、レジデンスクラブマガジン編集部=構成)

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