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スーパー主婦が伝授!モノも心も整う「小片づけ」のススメ

「片づけの達人」「スーパー主婦」として活躍する整理収納アドバイザーの井田典子さんは、モノと時間と心の整理は、片づけと密接した関係があると語る。井田さんが提唱する「小片づけ」を生活に取り入れ、心のゆとりをつくり、人生を整えよう。

「ひと仕事、ひと片づけ」を意識すれば、常にまっさらな状態に!

とりあえず、郵便物を卓上に置く。とりあえず、調味料やスパイスをコンロ回りに置く。といった積み重ねが「とりあえずの家」を生み、気づいたら家がカオスになっていた……そんな状況に心当たりはないだろうか。

ことに、人との交流が制限されていたコロナ禍を経て、家にこもる時間は増えるのに、他人の出入りが少なく、整理が手に負えない状況になることも。

実際にそうした家を目の当たりにしているのが、整理収納アドバイザーの井田典子さんだ。執筆や「モノと時間と心の整理」をテーマにした講演を重ねる一方で、依頼を受けて個人宅を訪ねる「片づけ訪問」は約500軒にのぼる。

日々の「暮らしのよどみ」をためないように井田さんが提案するのが、「小片づけ」である。

「時間も労力もちょっとやそっとでは済まない状態を『大片づけ』とすると、『小片づけ』は、使ったら元の場所に戻す、というふだんの後始末です。いわば『ひと仕事、ひと片づけ』。実は片づけというのは単独の動作ではなく、あらゆる行動について回るもの。習慣にすれば、面倒な大片づけは必要なくなり、生活や時間、心のゆとりまでもスムーズにめぐらせることができます」

「とりあえず」をなくし、ひとつのことが終わったら片づける習慣を身に付けたい。

よどみに「気づく」こと=定数定位置から乱れたものを把握すること
ほぐして「整える」こと=出す、分ける、減らす、仕舞うこと
スムーズに「めぐらせる」こと=乱れるたびに整える習慣をつけること

この一連の流れを実現することで、気持ちのよい暮らしを手に入れられる。「代謝」を心掛けているかどうかで、家の中はまったく変わってくるのだ。

井田典子さん宅のキッチン。鍋類や調味料、乾物などはシンク下の棚に収納し、コンロ回りは何も置かないことが鉄則。窓前にはオーディオ以外に何も置かないことで、調理中の作業スペースとして自由に使える。
「調理後は毎度、コンロ回りを拭く流れで壁も拭きます。『ひと仕事、ひと片づけ』を意識すれば、忙しい日々の中でわざわざ『片づけの時間』を捻出することなく、常にまっさらな状態からスタートできます」

「捨てる」のではなく「選ぶ」にフォーカスする

収納スペースを確保したり、収納用品をやみくもに買い求めたりする必要はない。井田さんいわく、「片づけは整理が9割、収納が1割」。むしろ、収納スペースが限られているほど、ため込まない習慣を後押ししてくれると唱える。

「片づいていない状況とは、モノが『混在』している状況です。必要なものとそうでないものをまず分ける整理が大事です。これは人生を選ぶ能力にもつながります。大事なのは、『捨てる』のではなく『選ぶ』にフォーカスすること。捨てる行為は誰にとっても辛いですし、選ぶ行為は未来への希望なのです」

整理で意識するのは、収納の「枠」。一見、窮屈なことに感じるかもしれないが、むしろ逆。枠を決めることで、自分や家族にとって何が大切なのかを意識できるようになり、必要にして十分なモノと暮らす満ち足りた生活ができるという。

「整理ができれば、どんな家でも収納スペースは余ります。枠に収めることを意識して、使わなくなったら手放せばいいのです。空間的な余白をつくることは、時間やお金の余白をつくることにもつながっています」

棚には、日常的に使う鞄、過去の仕事、子ども3人を育ててきた全アルバムが詰まっている。「必要なものを整理すれば、家族の思い出もこの『枠』の中に収められます」。

よどみやすいのは「キッチン」「書類」「衣類」

井田さんによると、とくに「よどみ」がたまりやすいのは、キッチン、書類関係、衣類だという。具体的な方法を見ていこう。

●キッチン

「毎日使い、汚れ、食材の増減があるキッチンは、最初に整理をしておきたい場所。ここをきれいにしておきましょう。コンロ回りには調味料やスパイスなどを置かず、収納スペースへ。コンロ回りをきれいにすることだけでも自己肯定感が上がりますし、“家事の筋力”を身に付けるトレーニングにもなります」

調味料や鍋類は、油汚れが付きがちなコンロ回りを避けてシンク下の収納へ。
乾物は、買ってきた日に調理して冷凍保存を基本としている。
引き出しの中のカトラリーも仕切って収納。出す、片づけるが効率的。
間仕切りは牛乳パックを活用。引き出しのサイズや量で幅を調節できて便利。

●書類

「紙類はたまりがちなので、まず家に入って来る段階で選別し、不要なものはそこでシャットアウトしましょう。とっておく場合も、やみくもにしまいこむのでなく、分類して保管場所と期間を決めましょう。郵便物はテーブルに置く前に、届いた時点で開封して必要なもののみを取っておくよう流れをつくります」

キッチン、仕事場にもなるダイニングテーブルから一番近い食器棚の引き出しに、文具やパソコン、資料などを収納。
書類は、引き出しの中の紙フォルダーに投げ込んで分類。ポケットファイルより出し入れしやすく処分するのも楽。

●衣類

「職業にもよりますが、1アイテム5点主義を提案します。ノースリーブ、カーディガン、ワンピースなど14アイテムに分類して、着回し、収納しています。靴も一緒です。持っている洋服と必要な数を把握しておけば、セール品にむやみに飛びつくこともありません」

井田さんの14アイテムの一覧表。洋服こそまさに「捨てる」ではなく、お気に入りを「選ぶ」の意識で、決まった枠の中に納まるものを持っておきたい。
井田さん夫妻のクローゼット。不要なものや着られなくなったものは代謝する意識をキープし、空間の余白を保っている。

「片づけの時間」は一生こない。「今やる」を習慣にする

井田さんは、ここ数年で、自身の両親を看取った。その際に苦労したのがモノを捨てなかった両親が大量に残した遺品整理だった。

「片づけないということは、捨てる辛さを誰かに残してしまうことでもあります。モノを買う時は、捨てる責任も一緒に買うということ、と思うと慎重になりませんか?それは自然と、暮らし方を考えることにつながります」

ついつい口にしてしまいがちな「片づける時間がない」という言葉。だが、何かを始める際にいちいち道具を探したり、同じモノを二度買いしたりすれば、時間も労力もお金もかかる。「大片づけ」になっては、なおのこと。

「手にしたその場で判断する」「後まわしにしない」「ひと仕事、ひと片づけ」。「小片づけ」のポイントを身に付け、自分を肯定できる軽やかな毎日を送りたい。

(2023年7月18日掲載) 取材・文/沼 由美子 撮影/高野 尚人

お話を聞いたのは●井田典子さん

いだ・のりこ/整理収納アドバイザー。広島県広島市生まれ。NHK総合テレビの情報番組「あさイチ」をはじめとする各メディアで「片づけの達人」「スーパー主婦」として活躍。依頼を受けた個人宅を訪ね、その家庭の暮らしに寄り添った「片づけ訪問」は約500軒にのぼる。整理収納や時間の使い方に関する実践的な講演会を全国各地で行っている。著書は、『今やるのが、いちばんハヤイ!人生が整う「小片づけ」』(主婦と生活社)、『井田家の40年の暮らしとお金のありのまま』(婦人之友社)など多数。
https://idanoriko.jimdofree.com/