ライフデザイン

ポルトガルワインに恋した、ある女性バイヤーの話

嬉しい日には、普段よりも素敵なワインで乾杯しませんか? ストーリーのあるワインは、特別な一日を演出します。今回は、2022年の日本へのワイン輸出金額が対前年比125%増と大躍進&大注目のポルトガルのワインを輸入し、オンラインストア「メルカード・ポルトガル」のバイヤー兼店長を務める毛利宏乃さんのエピソードをご紹介します。

ポルトガルと出合ったキッカケは?

小さい頃にアメリカに住んでいたため外国語が身近な存在でした。大学では別の外国語を学んでみたいと思い、上智大学でポルトガル語を専攻しました。フランス語やスペイン語ではなく珍しいが故に敢えてポルトガル語を選びました。在学中、ポルトガルに1年間留学したのですが、住んでみるとますますポルトガルが好きになり、卒業後もポルトガルに関わっていきたいと思うようになりました。しかし、ブラジルのポルトガル語を使う仕事はあるものの、ポルトガルのポルトガル語を使う仕事がなかなか見つからず、卒業後は別の仕事をしていました。

それがなぜポルトガルワインを輸入することに?

転機は1998年のリスボン万博でした。リスボン万博のことは留学時代から耳にしていました。この万博で働けないかと日本館の職員に応募したところ、採用されたんです。これまでの仕事は辞め、日本館で働き、6カ月間ポルトガルに滞在しました。この時は独身でしたが、後に夫になる人がポルトガルに遊びに来て、ワインを飲み、「安くておいしい!すごい!」と絶賛したんです。彼はワインに詳しい訳ではなく、それでも普通に美味しいと感心していました。
 
この時は特に何もありませんでしたが、1999年に結婚すると、彼が「こんなに安くておいしいポルトガルのワインが日本にないのは残念だよね。自分たちが輸入したらいいし、ビジネスにもなるんじゃない?」と言い出したんです。ちょうどオンラインストアがこれから始まるという頃で、ふたりともまだ若かったし、やるなら今しかないよね?と。夫もこのために仕事を辞め、2001年にオンラインストア「メルカード・ポルトガル」を夫婦で立ち上げました(メルカードはポルトガル語で「市場」の意味)。

ポルトガルへの想いを語る毛利宏乃さん。

苦労したことはありますか?

ワインの販売には酒類販売免許が必須で、その免許取得には食品販売で3年以上の実績が必要だったんです。そこで最初は日本に入っていたポルトガルのオリーブオイルを仕入れ、また、ポルトガルの雑貨や食器、刺繍製品なども輸入してオンラインストアで販売しました。ポルトガルの人は手先が器用なので、細かい良い製品があるんです。3年後の2004年、ようやく酒類販売免許を取得し、ワインが販売できるようになりました。買い付けと販売は私が担当し、経理やネットストアの設営管理、倉庫管理といったバックグラウンド的なものはすべて夫(代表取締役、毛利健さん)か担当しています。

輸入するワインはどのように選んでいますか?

現在、15生産者、82アイテムのワインを輸入し、販売しています。ポルトガルワインは、最近はだいぶ知られるようになりましたが、まだメジャーではないと思いますので、何も知らない方、ワインにそれほど詳しくない方が買う場合、買いやすい価格と、飲んだ時に素直に美味しいと感じられるものがいいのではと考えました。あまり熟成感のあるものより、フレッシュな果実の感じがストレートに来る「ヴィーニョ・ヴェルデ」のようなタイプです。ヴィーニョ・ヴェルデとは、フレッシュ&フルーティな味わいで、多くは微発泡タイプのポルトガルの特産品です。シュワシュワした発泡で人気があります。ヴィーニョ・ヴェルデはポルトガルの北のエリアで作られるため、扱うアイテムも北の産地のものが多めかもしれません。

ワインを始める前に輸入していたのが「CARM」という生産者のオリーブオイルです。ポルトガル屈指の高品質なオリーブオイルで、初期よりオンラインストアを支えてくれ、今でも根強い人気を誇る看板商品です。ここはワインもあり、輸入するようになりましたが、CARMのように、長い付き合いのある生産者とは自ずと信頼関係が育まれ、今ではビジネスを続ける上でもとても大切な要素となっています。

ポルトガルワインの魅力とは?

たくさんありますが、まずは250種以上といわれている土着ブドウ品種の多さです。世界のワイン産地の中で、面積あたりのブドウ品種の数が圧倒的に多いのがポルトガルで、さまざまな気候の中、多彩なワインが造られています。また、ポルトガルワインは堅苦しくないイメージがあり、食べ物と合わせやすいのも魅力です。

ポルトガル人はヨーロッパの中でも魚介類とお米をたくさん食べる国民として知られています。日本人と食の好みが通じるのでしょうか、なぜかポルトガルのワインは普通の日本の食事と合わせやすい気がします。例えば、よく冷やしたヴィーニョ・ヴェルデなどは、日本の焼き魚と良く合います。また、ポルトガルワインは全般的にお値段もお手頃です。聞いたことのない品種のワインを初めて試してみる時など、コストパフォーマンスの高さは大きな魅力となるのではないでしょうか。

ちょっといいことがあった時に開けたい、お勧めのワインを教えてください

(左)レゲンゴ・デ・メルガッソ・アルヴァリ―ニョ・レゼルヴァ・ブリュット 2018 (ヴィーニョ・ヴェルデ地方)2,420円
(中)ケヴェド・レイトボトルド・ヴィンテージ・ポートワインLBV 2016 (ドウロ地方)2,640円
(右)アレピアード・トラディション・レゼルヴァ 2020 (アレンテージョ地方)6,050円 ※価格はすべて税込み

レゲンゴ・デ・メルガッソ・アルヴァリ―ニョ・レゼルヴァ・ブリュット

シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵で造られるスパークリングワインで、瓶内熟成期間は16カ月。標高300メートルほどの丘の上に畑があり、気候も土壌もアルヴァリーニョ種の栽培に適しているため、ここではアルヴァリーニョしか栽培していません。このワインもアルヴァリーニョ100%。抜栓しただけでふわっと香りが出て、レストランのソムリエさんにもビックリされました。

ブリュットタイプで辛口の味わいですが、とてもまろやかで、アルヴァリーニョのふくよかな香りや味わいが120%楽しめます。抜栓2日目でも驚くほど泡がしっかり残り、どんなお料理でも合わせられます。大晦日に開けた時も、色々なフードに合わせて楽しみました。なお、このワイナリーは16世紀に建てられたマナーハウスをブティックホテルとして経営しています。周りをアルヴァリ―ニョの畑に囲まれた、田舎の小さなホテルですが、とても素敵なところでした。

ケヴェド・レイトボトルド・ヴィンテージ・ポートワインLBV

ケヴェドはドウロ川上流にある家族経営のワイナリーで、現在3代目。地元に対する情熱があり、畑の管理から自分たちで行い、家族経営ならでは目の行き届いた、品質の高いワイン造りを行っています。10年に2、3回ほどしか出せない非常に良い収穫年のみ造られるヴィンテージポートに対し、LBVはヴィンテージに次ぐ高いクオリティのぶどうで作られます。前者が10年単位でゆっくり時間をかけて熟成されるのに対し、後者は4~6年(通常4年)熟成させてから瓶詰するので、すでに美味しい状態で瓶詰されています。もちろん、すぐに飲まないでしばらく置いておいても、ケヴェドの場合15年ぐらいは瓶での熟成(さらに美味しくなること)が期待できます。

ポートワインは甘いお酒ですが、ケヴェドは他社より残糖度を5gほど低くし、甘さでワイン自体の良さを隠さないようにしています。白とロゼはよく冷やして、普通のポートも軽く冷やした方がキュッと締まって美味しくなります。できれば小ぶりなワイングラスに入れ、まずは何も合わせずそのまま飲んでみてください。伝統的にはブルーチーズ、ダークチョコレート、レーズンなどと合わせて楽しみます。

アレピアード・トラディション・レゼルヴァ

比較的新しいワイナリーで、2001年に現在のオーナー家族が100ヘクタールの敷地を購入し、ブドウを最初から植え直しました。土着品種にこだわるポルトガル人が多い中、土地のテロワールに合ったブドウを植えたいと、土着品種と国際品種の両方を植えて試行錯誤したようです。アレンテージョ地方の気候は暑く、安旨ワインが多い中、アレビアードではこの気候を利用し、じっくりじっくり味わってもらえるワインを造っています。

このワインはトゥーリガ・ナショナルというローカル品種100%、フレンチオーク樽で18カ月熟成させた長期熟成タイプで、重いワインですが、果実味に溢れ、太陽の味、南の雰囲気があり、誰もがおいしいと感じると思います。ワイナリー訪問時に猪豚のローストをいただきましたので、肉の煮込み、ジビエ類も合いそうです。美味しいチーズとパンだけというのもありですね。なお、彼らは、ポルトガルワインはまだ認知度が低いと自覚しているので、棚に並んだ時に手に取ってもらいたい、飲んで、さらにワインも気に入ってもらいたいと、目立つラベルデザインにしています。ラベルデザインは全部奥様がされています。

ポルトガルワインと料理の楽しみ方を教えてください

ポルトガルには「バカリャウ」という大きな干し鱈があり、365種類の食べ方があると言われるほど、ポルトガル人のソウルフードと言われています。身が厚く、臭みがなく、塩で漬けているので旨味も凝縮されています。これを彼らはお肉感覚でも食べていて、調理法によって、白ワインでも赤ワインでも合わせます。肉はどんな種類もよく食べます。ポルトガルのワインはバラエティ豊かですから、魚イコール白ではないし、肉イコール赤でもなく、色々な掛け合わせが考えられます。料理の味付けもとてもシンプルで、凝ったソースもあまりありません。見た目から想像できるシンプルな味付けは、たぶん日本人には非常に合うはずで、飽きが来ないと思います。

インタビューを終えて

「ポルトガル人がとてものんびりしているので、なかなかビジネスにはなりにくいだろうし、正直、20年も続くとは思っていませんでした。最初は、とりあえずやってみようか、という感じでした」と、スタートしたオンラインストアが好調で、2020年7月にはJR鎌倉駅東口から徒歩約5分、観光客でにぎわう小町通りとは逆の海岸方面の場所に実店舗をオープンした毛利さん。手に取りやすい価格帯のポルトガルワインが多く並び、ポルトガルの食材や雑貨も置かれ、ポルトガルの街の一角にいるような雰囲気が漂う素敵なお店でした。インタビューで訪問した平日の昼下がり、この店を目指して来た様子のお客さんが途切れません。ネッストアにも実店舗にも、毛利さんのポルトガル愛が詰まっているからですね。

メルカード・ポルトガル

住所:神奈川県鎌倉市大町1丁目1-12 Walk大町
営業時間:11:00~17:00(年末年始以外営業)
公式サイト:https://www.m-portugal.jp/(オンラインストア)

オンラインストアは、自社本店サイトのほか、楽天、Yahoo、Amazonにも出店

聞き手:綿引まゆみ(ワインジャーナリスト) 写真:花井智子

お話を聞いたのは●毛利宏乃さん

もうり・ひろの/神奈川県横浜市出身。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業。1998年ポルトガル万博で日本館勤務。2001年にオンラインストア「メルカード・ポルトガル」開設。2004年からワイン取り扱いを開始。2020年に実店舗「メルカード・ポルトガル」を鎌倉市に開店。