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新美術館「静嘉堂@丸の内」が10月1日開館

和漢の古典籍約20万冊と東洋の古美術品約6500件を所蔵し、国宝7件、重要文化財84件という国内有数のコレクションを誇る公益財団法人静嘉堂。130年前、三菱第二代社長の岩﨑彌之助(岩崎彌太郎の弟)によって創設され、息子の岩﨑小彌太(三菱第四代社長)によって拡充されたそのコレクションを東京世田谷区の静嘉堂文庫美術館で保管、展示してきたが、このたび美術館の展示ギャラリーを皇居に近い丸の内へと移転。10月1日にオープンを迎える。その新美術館開館記念展の見どころを聞いた。

重要文化財の近代洋風建築に新しい美術館が誕生

「静嘉堂@丸の内」の広報・大森智子さん

皇居を望む明治生命館に新しい美術館が「静嘉堂@丸の内」という愛称でオープン。1934年に建てられたギリシャ建築風の石柱が特徴的な古典主義様式の建物は、それ自体が国の重要文化財だ。静嘉堂の国宝や重要文化財はその美しくラグジュアリーな空間を生かしたリノベーションにより、新たに生まれた展示室に飾られることになる。1ブロック東京駅寄りには西洋近代美術を中心とする展示で知られる三菱一号館美術館もあり、三菱のアートスポットが並ぶことに。静嘉堂文庫美術館広報の大森智子さんは、移転の経緯を説明する。

「三菱第二代社長の岩﨑彌之助は、アメリカに留学経験があり、明治23年(1890年)に丸の内の広大な官有地を買い取ると、近代的なオフィス街の建設に着手しました。そこには美術館や劇場などの文化施設を造る構想もありました。三菱一号館を設計したジョサイア・コンドルによる美術館の図面も残っています。このたびご縁があって、同じくコンドル設計の三菱二号館の跡地に建てられた明治生命館の1階に移転できることになり、彌之助の願いがかなった形になります」

美術館内部に入ると、昭和初期に流行したスパニッシュ様式の重厚なバルコニーを持つ広々としたロビーがホワイエとして整備され、休憩スペースに。その周りに4つの展示室(ギャラリー)が作られている。鑑賞者はそこをぐるりと一巡することに。歴史ある名建築の中でぜいたくなひとときを過ごせそうだ。

世界に3件しかない曜変天目など、国宝7件を展示

【国宝】「曜変天目(稲葉天目)」建窯 南宋時代(12~13世紀)

オープニング展の「静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念Ⅰ展『響きあう名宝―曜変・琳派のかがやき―』」では、4章構成で4つのギャラリーに静嘉堂の名品を展示する。前期には所蔵の国宝7件すべてを展示し、もちろん、静嘉堂の代名詞ともいえる曜変天目(ようへんてんもく)も見ることができる。

曜変天目とは黒釉の茶碗で斑紋の周囲に青色を主とする光彩があらわれたもの。完全な形で現存するものは国内に伝存する3点のみで、その中でも静嘉堂の曜変天目は、宇宙の星のきらめきのような光彩が特に鮮やかだと言われている。かつて徳川家が所有し3代将軍・家光が病に倒れた乳母の春日局へ薬とともに下賜したというエピソードをもつ由緒ある品だ。

「1934年、この明治生命館が建てられた年に、岩﨑小彌太の所有となりました。そもそも曜変天目は中国から日本に伝わったものですが、なぜか中国では完全な形ではまだ見つかっていません。この斑紋自体が偶然によるところが大きく、現在でも再現することができないと言われています。近年、当時の宮殿の近くで破片が見つかっているので、製作技法や伝来の謎について研究が進んでいくかもしれませんね」(大森さん)

武将たちも愛した古美術が岩﨑家のコレクションに

曜変天目は室町時代に南宋から渡来。日本の武将は「唐物(からもの)」と呼んで、文化芸術の最先端であった中国の工芸品をありがたがった。曜変天目もそのひとつだ。静嘉堂は中国美術のコレクションも充実しており、今回の展覧会では他に国宝に指定されている中国絵画2件や堆朱(ついしゅ)の盆ほか、2つめのギャラリーが1室まるごと中国美術の展示となる。前期は宋・元時代、後期は明・清時代の所蔵品と、全く違う展示が楽しめる。

<左>【国宝】伝 馬遠「風雨山水図」南宋時代(13世紀)、<右>【国宝】因陀羅、楚石梵琦 題「禅機図断簡 智常禅師図」元時代(14世紀)
<右>大名物「唐物茄子茶入 付藻茄子」、<左>大名物「唐物茄子茶入 松本(紹鷗)茄子」、いずれも南宋~元時代(13~14世紀)

武将に愛された茶道具の名物と言えば、岩﨑彌之助のコレクション第1号である大名物「唐物茄子茶入 付藻茄子(つくもなす)」と「唐物茄子茶入 松本(紹鷗)茄子」もある。戦国時代はこういった名物が一国と取引されるほどの価値があった。 「2つの唐物茄子茶入は織田信長、豊臣秀吉、徳川家康という三英傑の手から手へ渡っていったもので、大坂夏の陣でバラバラになってしまいましたが、漆の名工・藤重藤元父子によって修復され、現在の姿になりました。その修復のみごとさに感動した家康が藤重父子に下賜し、明治の世になって彌之助が購入。今回は最新のCTスキャンで、修復の様子がわかる写真もご覧いただけます」(大森さん)

大迫力!俵屋宗達と酒井抱一の金銀屏風がお目見え

そして、最も広い展示室・ギャラリー3では、江戸時代に花開いた日本美術の中でも人気が高い「琳派」の華やかな作品を展示。俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一、鈴木基一という琳派四大巨匠の名品が揃う。オープニングを飾るのは「風神雷神図屏風」で知られる俵屋宗達の国宝「源氏物語関屋澪標図屏風」だ。
 
「『源氏物語』第十四帖『澪標』と第十六帖『関屋』を題材とした本作は、宗達らしい大胆な画面構成と巧みな色づかい。山や松の緑が鮮やかですが、秋の場面の絵であり、家の軒先には紅葉が描かれています。後期には、渋く輝く銀地の画面に迫力ある筆致で波濤を描いた酒井抱一の『波図屏風』を展示します。この銀箔のきらめきがなかなか写真では再現できないので、ぜひ実物を見ていただきたいですね」(大森さん)

【国宝】俵屋宗達筆「源氏物語関屋澪標図屏風」江戸時代(1631年)※前期展示
酒井抱一「波図屏風」江戸時代(1815年頃)※後期展示

金地と銀地の屏風絵はそれぞれ右隻左隻並べて展示され、横幅3メートルを超える大画面には現代アートにも負けない迫力に。展覧会のクライマックスとなる。
 
国宝は他に鎌倉時代の名刀「手掻包永」(13世紀)、詩歌集「倭漢朗詠抄太田切」(平安時代・11世紀)、書簡・趙孟頫「与中峰明本尺牘」(元時代・14世紀)が展示される。前後期通して展示替えされた出展作をコンプリートするのも楽しい。
 
「今回の展覧会は、静嘉堂のコレクションの各ジャンルからお客様に一番に見てほしい名品をそろえました。ぜひこの機会に新しい美術館を訪れてみてください」(大森さん)

(2022年9月13日掲載)

●データ
静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念展Ⅰ
「響きあう名宝―曜変・琳派のかがやき―」
開催期間:2022年10月1日(土)~12月18日(日)
[前期]10月1日(土)~11月6日(日)[後期]11月10日(木)~12月18日(日)
開催場所:静嘉堂@丸の内
住所:東京都千代田区丸の内2-1-1明治生命館1階
開館時間:10:00~17:00 ※金曜は18:00閉館。入館は閉館時間の30分前まで
休館日:月曜(10月10日は開館)
入館料:一般1,500円 大学・高校生 1,000円 中学生以下無料 ※三菱地所レジデンスクラブ会員は200円割引
ホームページ https://www.seikado.or.jp/

取材・文=小田慶子 撮影=強田美央