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薬はまだ早い!頭皮の名医が教える育毛メソッド

頭髪のトラブルは、男女・年齢を問わず多くの人に共通の悩み。メディアにも治療の広告があふれている。しかし、医師の田路めぐみさんは、高価な育毛剤や育毛注射を打つ前に、自分の体の状態を見直し、薄毛の原因に対して総合的にアプローチすべき──と薄毛治療に一石を投じる。

髪の毛は、体全体で生やしている

松倉クリニック表参道で総合育毛治療を行っている医師・田路めぐみさんが提唱する〝育毛革命〟には『4大ターゲット』がある。それが『食事』『睡眠』『運動』『ストレス』だ。まずは次のセルフチェックシートで、自分の抱えている問題点を把握してほしい。10項目中、チェックが7〜10付くと相当問題あり。4〜6は注意レベル。0〜3はある程度よい習慣ができている、ということになる。

チェック項目はいずれも日常生活の中でのささいな生活習慣に関するものだが、これらの中にこそ薄毛の原因が隠されている、と田路さんはいう。

「私は初診時にチェックシートにあるような問診を細かく行い、必ず患者さんの体全体の状態を把握します。髪や頭皮ばかりを診るわけではなく、何がその人の育毛上の問題となっているのかを生活習慣や食生活から判断し、改善点を探して行くわけです。人間の体の中には様々なネットワークが相互に関わり合っており、毛母細胞だけをサポートすれば毛が生えるというような単純なものではありません。髪の毛は『体全体で生やしている』のです」

育毛の大敵となるのが栄養不足。糖質や加工食品の多い食生活を続けると髪の毛に必要な栄養素が不足し、育毛の妨げとなるという。そのため『食事』は最も重要な育毛ターゲットであるという。

「ヘアケアなど外部からのアプローチでは、頭皮の中にまで充分に栄養が届きません。髪の毛を作るためには食事によって腸からしっかり栄養を摂るしかないのです。薄毛の人に不足がちなのがタンパク質・ビタミンC、B群・亜鉛や鉄分です。亜鉛や鉄分は肉やシーフードに含まれていますが、効率的に摂取しにくい栄養素なので、バランスの良い食事を前提としてサプリメントを併用するのも有効です。またカレーライスやラーメンといった糖質過多の食事は細胞の活動を滞らせ薄毛の原因となります。食事はベジファースト(野菜→タンパク質→糖質の順番で食べる)を心がけ、食物繊維を先に摂ることで糖の吸収を穏やかにすることが大切です」

田路さんが食事の次に挙げる育毛ターゲットは『睡眠』。髪の成長には、成長ホルモン・甲状腺ホルモン・女性ホルモン・メラトニンの4つのホルモンによる刺激が大切になるが、良質な睡眠はこれらのホルモン分泌を促す効果があるのだそうだ。

「髪の毛の成長をサポートする成長ホルモンは眠っているあいだ、特に眠り始めの深睡眠での放出量が最も多くなります。このため最低でも3時間以上続く良質な睡眠が育毛にとっては必要なのです。また昼夜逆転の生活などで体内時計が狂ってしまうと、体を睡眠へと誘うメラトニンというホルモンの分泌が減少します。メラトニンの低下は睡眠のリズムを崩し、成長ホルモンの放出も同時に低下。結果的に薄毛が進行するという悪循環を招きかねません。朝起きて日光を浴び、日が暮れたら休息するという、人間本来の生活リズムを取り戻すように心がけましょう」

セルフチェックシートはこちら

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筋トレは育毛にも効果的

3番目の育毛ターゲットは『運動』だ。運動によって分泌が促される男性ホルモンのテストステロンは、育毛にとって本来はマイナス要因。ただし適度な運動により髪の毛を作る成長ホルモンも同時に放出され、一方で育毛に不利な『悪玉テストステロン』の割合を下げるため、運動は薄毛や抜け毛に効果的なのだ。
 
「筋トレを行うと筋肉から成長ホルモンが放出されます。本来は筋肉を育てるためのホルモンですが、その一部は血管にも漏れ出して、育毛にも効果的に作用するのです。また運動は血流や代謝を誘うため、適度な運動をしている人は肌の艶が良くなります。肌と髪の毛の動きはよく似ているので、肌がきれいな人の多くは髪の毛も元気です。加えて有酸素運動は糖質の代謝を促進するので、糖質過多の改善にもつながるのです」
 
最後の育毛ターゲットは『ストレス』だ。慢性的なストレスはあらゆる体調不良の原因となるため、当然育毛にも大きな影響を与える。
 
「ストレス時には食欲を亢進するホルモンが分泌され、暴飲暴食から『ストレス太り』を引き起こすこともあります。また不眠の原因にもなるため、睡眠に与える影響も絶大です。ホルモンバランスが崩れることも多く、結果、髪を育てるホルモンの恩恵を受けることができなくなってしまいます。つまりストレスは『食事』『睡眠』『運動』という他の3つのターゲットすべてに悪影響を与える、薄毛の最大の原因ということ。ストレスをゼロにすることは不可能ですが、自分に合った方法で発散し、ストレスと上手につきあっていくことが育毛には必要となります」

薬に頼る前に、土台を立て直す

田路さんは「正しく食べ、眠り、運動すれば、髪は勝手に生えてくる」と語る。
 
「私が目指している医療は『予防医療』です。本来は病気にさせない治療や指導を指しますが、病気の治療や手術の結果も患者さんの栄養状態や生活習慣に大きく左右されます。これは医師の技術ではカバーできない部分。もっと栄養状態が良ければ、より適切な治療ができたのに……と何度も悔しい思いを経験しました。そんなとき栄養療法に出会い『これが自分の求めていた答かもしれない』と思ったのです。これを通常の医療だけでなく、育毛治療にも応用したのが育毛外来の始まりです」

 栄養療法による育毛治療は最低でも3カ月は続けないと効果を実感しにくいという。

「長年続けた生活習慣が遺伝子に悪い影響を残し、元に戻りにくい状態を作ってしまっているからです。そのうえ髪の毛は生命活動に関係のない組織ですから、悪影響が表れるのは最初、体質改善に励んでも回復するのは最後となりますし、髪が伸びるのもひと月に約1センチのスピードです。しかし、土台を立て直すことで薬に頼らなくてもこれから先よい状態を保つことができます。育毛と言えば毛根のケアという思い込みがありますが、髪を作っている土台である『体』をおろそかにしていたのでは、育毛剤やクリニックの受診も効果は望めません。まずは4つのターゲットを改善し、体を万全な状態に戻してから育毛治療を考えても遅くはないでしょう」

お話を聞いたのは●田路 めぐみさん(松倉クリニック表参道・医師)
Megumi Taji

平成9年東京大学医学部医学科卒業。形成外科学会専門医。抗加齢医学会専門医。虎の門病院外科レジデント修了後、東京大学形成外科入局。総合病院で形成外科チーフとして活躍したのち、2014年より松倉クリニック勤務。審美眼と繊細な技術を活かした美容施術のみならず、栄養とホルモンを基礎に体の中からも整え、美と健康を両立させることを目指す。著書に『東大医師が教える最強の育毛革命』(集英社)。