ライフデザイン

つましい生活で億万長者になった、伝説の東大教授の貯金法

本多静六を知っていますか? 貧しい農家に生まれ、東大教授(日本初の林学博士)でありながら、貧しい生活を続け、巨万の富を築いた伝説の人物だ。著書『私の財産告白』(実業之日本社)は、投資家のバイブル的存在になっている。ファイナンシャル・プランナーの藤川太さんの解説とともに、独自の金銭感覚と人生哲学を持つ彼の言葉を味わい、投資の神髄を学びたい。

PROFILE
本多静六

ほんだ・せいろく/1866年、埼玉県生まれ。東京山林学校を主席卒業したのち、ドイツに留学。そこで 恩師・ブレンターノ博士と出会う。帰国後、東京農科大学(現・東京大学農学部)の助教授となるも、師の教えに従い、25歳から蓄財を開始。タネ銭を貯め、それを元手に投資し、巨万の富を築く。退官の際、ほぼすべての財産を匿名で寄付してしまう。『私の財産告白』(実業之日本社)など約370冊の著作を残す。

解説 藤川 太(ファイナンシャル・プランナー)

ふじかわ・ふとし/生活デザイン代表取締役社長。2001年に「家計の見直し相談センター」を設立以来、2万世帯を超える家計診断を行ってきた。『やっぱりサラリーマンは2度破産する』など著書多数。

貧乏だからこそ、お金を貯める知恵が湧いてくる

本多静六が設計を手がけた日比谷公園。明治期以降の日本の大規模な公園の設計・​改良に携わった彼は「日本の公園の父」とも呼ばれている。

本多静六先生の貯蓄法は、手取り収入からその四分の一を「天引き」するもの。わが「家計の見直し相談センター」では、何万件を超える計診断を行ってきたが、「天引き率25%」をキープできるのは、私たちが「貯め上手」と認める一部の達人だけ。

貯め上手さんは「知恵」の宝庫だ。そもそもその出費が妥当か吟味したうえで、妥当だとしたら安く抑える方法はないか、考え抜く。われわれも驚くほど生活費はスリムだ。潤沢にお金があると、「知恵」は湧いてこない。「貧乏」だからこそ「お金について考える力」が研ぎ澄まされ、「知恵」がつく。「貧乏の経験」はとてつもなく大きな価値がある。

ところが、最近の若い世代の人たちは「貧乏の自覚」がない。理由は、結婚したとたん「広い家」に住んでしまうことにある(テレビもいきなり50インチ)。「家」は貯金の目標にピッタリだ。ボロアパートからマンション、一軒家へと徐々に広くなるからよいのに。最初から3LDKを手に入れてしまったら、目標がなくなる。欲求が絶え間なく湧く「逆境」こそ、必要なものなのだ。

お金を貯めたいなら、固定費は「家計見直し」の生命線だ。かつて、驚きの新婚相談者がいた。新郎が結婚に際し、固定費をゼロ・リセットしたのだ。契約しているものをすべて解約、必要なものだけを再契約した。こうした思い切った行動を「撤退する勇気」と呼んでいる。なぜ、彼は撤退を決断したのか。理由は、自分の欲求をコントロールできないことを知っていたから。賢い人だ。このご夫婦はその後、かなりの財産を築かれた。十分お金持ちになったのち、若いころに手放したクルマをもう一度手にされた。読者の皆様にも、できる範囲での「撤退」をおすすめしたい。

さて、本多先生の言葉のなかで、私がもう一つ、感銘を受けているのが「好景気には節約、不景気のときに投資」という考え方だ。

一例を挙げるなら、タネ銭を貯めて、大きな経済ショックのときに一気に株を買い込む。「株安」を待っていた人にとって、一流銘柄も一緒に値下がる経済ショックは、またとない「バーゲンセール」だ。とはいえ、リーマンショックレベルの激震は、人生に3度くらいしかない。数少ないチャンスを生かした人は、間違いなくお金持ちになっている。ぜひ、参考にしてほしい。

本多先生が生きた19世紀後半と今とでは時代状況が違うが、その言葉は、今も光り輝く道しるべだ。

お金を貯めたい人は必読!本多静六の名言

収入があったとき、容赦なくまずその四分の一を天引きにして貯金してしまう。
そうして、四分の三で、いっそう苦しい生活を覚悟の上で押し通すことである。
これにはもちろん、大いなる決心と勇気が必要である。

貧乏に強いられてやむを得ず生活をつめるのではなく、自発的、積極的に勤倹貯蓄をつとめて、逆に貧乏を圧倒するのでなければならぬと考えた。

頑是(がんぜ)ない子供たちは正直だ。
「お母さん、今夜も胡麻塩?」などと泣き顔をした。それを家内が、
「もう三つ寝るとオトト(お魚)を買ってあげますよ」
となだめなだめしていたが、私は平気とはいいつつ、
さすがにこれには断腸の思いをした。
しかし、私のこの計画は、あくまでもしっかりした理性の上からきている。
気の毒だとか、かわいそうだなどということは、単に一時的のことで、しかもツマラヌ感情の問題だ。

「好景気、楽観時代は思い切った勤倹貯蓄」(すなわち金を重しとする)、「不景気、悲観時代には思い切った投資」(すなわち物の重しとする)、という鉄則を樹てて直進することを人にもすすめている。

何事にも成功を期するには、ぜひこれだけは心得ておくべしといった、大切な処世信条の一つを披瀝しておく。それは、何事にも「時節を待つ」ということだ。焦らず、怠らず、時の来るを待つということだ。投資成功にはとくにこのことが必要である。

お金持ちになった人はすでに坂の頂上にいるので、それより上に向かうのは容易ではなく、ともすれば転げ落ちそうになり、そこにいつも心配が耐えぬが、坂の下や中途にあるものは、それ以下に落ちることもなく、また少しの努力で上へ登る一方なのだから、かえって幸福に感ずる機会が多いということになる。

ケチン坊などというそしりに耳をかたむけていてはいけない。出すべきものを出し、するだけのことをしておいての上であれば、だれはばかることはない。

金を馬鹿にする者は、金に馬鹿にされる。
これが、世の中のいつわらぬ実情である。

町田七音=イラスト 参考文献/『私の財産告白』(実業之日本社)

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