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“パワーカップル”が住宅ローンを組む際の落とし穴

夫婦共働きで、互いにそれなりの収入がある夫婦は「パワーカップル」と呼ばれている。住宅ローンを共有名義にすることで、高めの物件にも手が届きやすくなるメリットがあるが、その判断は問題ないのだろうか。ファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんが、パワーカップルが住宅ローンを組む際の注意点を語る。

“パワーカップル”が組む住宅ローン、3つの傾向

まずは、パワーカップルが住宅を購入するとき、住宅ローンを組むときに多く見られる傾向から見ていきましょう。

【傾向①】住宅ローンが高額になりがち

最初は、夫が単独で契約し、3,000万~4,000万円のローンを組めたら十分と考えていても、いざ住宅展示場や分譲マンションのショールームに行くと、物件価格が高騰している今は、想定していた予算では買えない現実を突きつけられることが多いのです。その結果、夫婦の収入を合わせればローンを組めるという判断に至り、共有名義にして予定よりも大きな金額を借りてしまいます。

また、現在の現役世代は、定年を超えても働き続けることに抵抗がない人が多いため、住宅ローンを完済するまで働くことを前提に、高額のフルローンを組んでしまうことも多いといえます。

【傾向②】「収入合算」を利用する

共有名義のローンは夫婦の収入を合算して審査するので、単独で契約するよりも高額のローンを組めます。共有名義のローンは大きく2種類に分けられ、「ペアローン」は夫婦それぞれに住宅ローンを契約し、互いに連帯保証人になる形態。「収入合算」は片方が契約者となり、もう片方が連帯保証人になります。

「ペアローン」は、夫婦ともにある程度の収入がないと利用できないので、選ぶ方々は少ない印象です。一方の「収入合算」はどちらかが契約すればよく、保証料などがローンひとつ分で済むコスパのよさから、利用している夫婦は多いといえます。

【傾向③】優遇措置の活用を優先

最近では、住宅ローン控除をはじめとした優遇措置や金利動向等の情報を、事前にインプットしている人も少なくありません。収入や情報リテラシーが高い人は投資への関心も強い傾向があり、「住宅ローンの金利より投資の運用益の方が大きいから、何かあったら運用益で返済する」という考えの方もいらっしゃいます。

優遇措置や投資によって、効率的に家を買うのはいいことです。ただし、20年や30年といった長期にわたるローンを返済する間、運用益や金利が自分にとって有利に推移し続けるとは限りません。情報収集は大事ですが、それと同じだけ、住宅購入におけるリスクについて考えることも重要です。

考えるべき3つの「リスク」

パワーカップルが陥りやすいリスクとは、どのようなものが考えられるでしょうか。

【リスク①】働けなくなるリスク

理想の家を前にすると、「この家を買いたいから、頑張って働こう」と考える人がほとんどでしょう。しかし、年齢を重ねると、病気やケガ、リストラなど、さまざまな理由で収入がなくなるリスクが出てきます。

ここ数年のコロナ禍で、給与や賞与がカットされたり、仕事がなくなったりと、生活が一変してしまう経験をした人もいるでしょう。特に、妻は、出産や育児等で就労継続が難しいことも考えられます。現在の働き方や収入が継続できるとは限らないので、収入が途絶えたときのことも想定して、余裕のあるローンを組むことが重要です。

【リスク②】資金ニーズが増えるリスク

住宅は大きな買い物ですが、人生のすべてではないはずです。家が広くなれば水道光熱費が上がり、持ち家だと固定資産税や都市計画税がかかります。子どもが生まれたら教育費が発生しますし、自分自身の老後資金も貯めておきたい。

人生には、住宅ローン以外の資金ニーズがあります。高額な家を買ったばかりに、ローン返済で手一杯ということにならないように注意しましょう。

【リスク③】共有名義のリスク

共有名義だと、高額なローンを組みやすくなります。つまり、夫婦ともに高額なローンを背負う覚悟が必要になるのです。

万が一、離婚することになった場合を考えてみましょう。「収入合算」だと、離婚しても連帯保証人をやめられません。契約者が返済できなくなれば、夫婦でなくとも連帯保証人が返済を求められるのです。「ペアローン」も相手の連帯保証人になるので、同様のリスクがあります。1人でも返し続けられるか、慎重に考えましょう。

リスクを避けるための4つの対策

できる限りリスクを回避するため、事前にできる対策があります。住宅購入を検討する際に、まず考えたいところです。

【対策①】「購入」より「返済」を重視する

夫婦の収入を合わせれば、高いローンを組むことはできます。しかし、重要なのは、そのローンを完済できるかどうかです。ローンを返し続ける間、働き続けられるのか。教育費や老後資金を含めた資金ニーズに対応できるのか。夫婦でライフプランを考えたうえで、住宅の資金計画を立て、「借りられる金額」ではなく「返せる金額」を設定してから、住宅を選ぶことが大切です。

現状ではどうしても理想の家に手が届かないということであれば、購入の時期をずらし、「頭金を貯める」「収入を増やす」「支出を見直す」といった方法を考えてみましょう。

【対策②】返済額は「家賃ベース」で考える

賃貸住宅に暮らしている場合は、現在の家賃をベースに「返せる金額」を考えましょう。例えば、共益費などを含めた家賃が月10万円、住宅購入のための積み立てが月5万円なら、月15万円は返済に充てられるはず。そこから逆算して借入額を導き出すと、無理のないローンを組めます。

【対策③】35年のフルローンは組まない

住宅ローンは、返済期間が長いほど大きな金額を借りやすくなりますが、安易に最初から最長35年ギリギリでローンを組むことはおすすめできません。なぜかというと、「コロナ禍で一時的に返済できなくなった」というような場合に、期間の延長ができないからです。30年返済など、余裕をもった組み方ができるとベストです。

【対策④】「家を買ったら終わり」ではないことを意識する

家を買ったらゴールではなく、そこからさらなる人生が続いていきます。住宅購入以外にもさまざまなライフイベントがあることを念頭に置き、資金計画を立てましょう。


(2022年8月30日掲載)

お話を聞いたのは●黒田尚子さん

くろだ・なおこ/ファイナンシャルプランナー、CFP(R) 1級ファイナンシャルプランニング技能士。立命館大学法学部修了後、日本総合研究所に入社。在職中にFP資格を取得し、1998年に退社、独立系FPとして活動を始める。現在は、各種セミナーの講師やメディアでの執筆、個人相談を行っている。主な監修本・著書に『おひとりさまのはじめてのエンディングノート』(主婦の友社)、『お金が貯まる人は、なぜ部屋がきれいなのか「自然に貯まる人」がやっている50の行動』(日経BP)など。
https://www.naoko-kuroda.com/