理想の住まいの選び方

都心のマンションより、郊外の注文住宅という選択肢

2022年も新築・中古マンションの価格高騰は止まりません。その影響もあり、「都心を離れ郊外に注文住宅を建てる人が増えている」と住宅ジャーナリスト・山下和之さんは語ります。郊外に注文住宅を建てることのメリットとは?
※掲載内容は取材時点(2022年1月)の情報です。

メリット1:分譲マンションとほぼ同額で家が建つ

土地を購入し注文住宅を建てるには高額な費用がかかると考える人も多いと思います。確かに、都心に土地を購入し家を建てる場合、分譲マンションを購入するより高くなります。7,000万円~8,000万円、ともすれば1億円を超えることもあります。しかし、同じ注文住宅でも、都心を離れれば、マンションより安く家を建てることもできるのです。

東京で言えば、世田谷区の土地の平均価格は1平米あたり61万900円ですが、立川市では25万1600円となります。注文住宅の住宅面積の平均は約120平米と言われていますので、世田谷区に住宅用の土地を買おうと思えば土地代だけで約7,000万円かかってしまうのです。一方、立川市なら約3,000万円で購入できます。さらに郊外に行けば、より安く抑えることができるはずです。

建築費用に2,000万円~3,000万円かけると考えて、もし土地代を2,000万円程度に抑えることができれば、約5,000万で注文住宅を建てることが可能なわけです。不動産経済研究所の調査によれば、2021年11月の新築分譲マンション(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の平均価格は6,123万円です。つまり、郊外に目を向ければ、都心のマンションとほぼ同額か、それより低い金額で注文住宅を建てることができるのです。

メリット2:床面積が広い

注文住宅のメリットは価格だけではありません。床面積の広さも魅力のひとつです。マンションと一戸建ての床面積の平均を比較してみましょう。国土交通省住宅局が令和2年に発表した「令和元年度住宅市場動向調査報告書」によれば、分譲マンションの床面積が75.8平方メートルなのに対し、分譲一戸建て住宅では110.3平方メートル。一戸建てのほうがマンションより34.5平方メートル広くなっています。広くなった分、テレワークスペースをはじめ、家族それぞれが趣味の部屋を持つということも可能なのではないでしょうか。

コロナ禍で在宅勤務をする人が増えたことも、郊外の注文住宅が注目されるきっかけになりました。これまでは通勤に便利なところを住宅購入の条件にあげていた人も、出勤は週に1回~2回、あるいは、出社せず完全リモートワークをすることになれば、通勤時間はそれほど気にしなくてもいいわけです。

インターネット関連会社、ヤフーではテレワークの充実をはかるため、2022年4月から社員の居住地を全国に拡大するという人事制度を発表しました。しかも、飛行機や特急列車での通勤も認めるそうです。同様の制度は、LINEやメルカリでもすでに導入しており、そうした動きが広がれば、郊外に注文住宅を建てるという選択肢は、ますます増えていくはずです。

メリット3:国の支援が受けられる

注文住宅を検討されている方にぜひおすすめしたいのが、長期優良住宅やZEH(ゼッチ/ゼロエネルギー住宅)といった省エネ性能の高い住宅です。長期優良住宅とは、劣化対策や耐震性、省エネルギー性など長期間快適に暮らせるための9つの基準をクリアした住宅のことで、長く快適に暮らせることはもちろん、住宅ローン控除や、固定資産税の軽減期間延長などの優遇措置を受けることができます。

一方、ZEHは高性能の断熱材や断熱性の高い窓ガラスを用いたりするなどして、家全体の熱の出入りを少なくし、なおかつ太陽光発電の設置により、自宅で作り出すエネルギー量が消費エネルギー量より多くなることを目指した家です。国は今、このZEHの普及を積極的に推進しており、2030年までに新築住宅の大半をZEHにするという方針を掲げているほどです。それだけに補助金制度も充実していますので、興味のある方は調べてみてください。

確かにZEHは一般住宅より建築費用はかかりますが、その分、光熱費はかなり節約できます。ZEHを建て替えた人の調査をしたところ、建替え前の住宅より年間20万円くらい光熱費がダウンしたというデータがあります。太陽光発電の設置には200万円くらいかかりますが、毎年20万円安くなれば10年で回収できて、その後はプラスになっていくわけですので、長い目で見れば、かなりお得と言えるでしょう。断熱性の高いZEHは、家全体が暖かいので冬場のヒートショックも防いでくれます。長く住める家を建てれば、建築・解体時に排出されるCO2量も抑えることができますので、家計にも人にも、そして環境にもやさしい家と言えるでしょう。

メリット4:資産価値の下がり方がゆるやか

マンションの場合、築15年~20年過ぎれば資産価値は急激に下がりはじめ、築30年で、半分程度になってしまいます。もちろん、一戸建ても年数を経るごとに安くはなりますが、マンションのように急激に下がることはありません。土地値で歩留まりがかかるからです。とはいえ、土地値はエリアによって当然違います。郊外でも地価が上昇し続けているところもあれば、下がっていくところもあります。

例えば、千葉県木更津市は、郊外ながら今も地価が上がっている街のひとつです。都心からはかなり遠くなりますが、テレワークがメインの方であれば、木更津に注文住宅を建てるという選択肢もあるでしょう。もう少し都心に近いほうがよければ、市川市、船橋市あたりがおすすめです。埼玉県では川口市、戸田市。神奈川県なら鎌倉市、茅ヶ崎市、藤沢市。東京なら立川市あたりが狙い目です。いずれ家を売却し、都心に戻ることを考えているのなら、地価が下がりにくいこうしたエリアに注文住宅を建てるのがいいでしょう。

コロナ禍以降の人口移動率を見ると、北関東が地道に増えていて、テレワークが増えたことで地方へ移住する人も増えていることがわかります。北関東のなかで、特におすすめなのが、茨城県のつくば市です。つくばエクスプレスを使えば約1時間で都心に出ることができて便利ですし、地価も東京に比べるとぐっと抑えられます。

地方への移住は地価が安い分、広い家が建てられることに加え、地方創生移住支援事業の一環として自治体から補助金が支給されることが大きなメリットです。以前は移住先で地元企業に就職する人を対象に支給されていましたが、テレワークの普及に伴い、東京での仕事をそのまま続ける場合でも支給されるようになりました。これを利用すれば、先にお話しした長期優良住宅やZEHを建てることも可能ではないでしょうか。ただし、地方都市の場合、県庁所在地クラスの市でも中心市街地でないかぎり資産価値は下がっていきます。地方都市に移住し注文住宅を建てる場合は、その地に永住する覚悟が必要です。

ある程度資産価値が維持できる郊外か、それとも地価が安く、なおかつ補助金制度が利用できる地方か、ご自身のライフプランと照らし合わせ、ぜひ理想の暮らしを手に入れてください。

【参考】

東京都財務局(P8/東京の不動産価格)
https://www.zaimu.metro.tokyo.lg.jp/kijunchi/R3nen/01-01_R3gaiyou.pdf
 
国土交通省住宅局(P130/床面積の比較)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001348002.pdf
 
住宅金融支援機構(P22/注文住宅の平均平米数)
https://www.jhf.go.jp/files/400350205.pdf
 
ZEH補助金
https://diamond-fudosan.jp/articles/-/1111198


構成=阿部えり

お話を伺ったのは●山下和之さん(住宅ジャーナリスト)

1952年生まれ。住宅・不動産分野で新聞・雑誌・単行本などの取材・原稿制作、各種講演、メディア出演などを行う。『住宅ローン相談ハンドブック』(近代セールス社)、『はじめてのマンション購入成功させる完全ガイド』(講談社ムック)などの著書がある。
http://yoiie1.sblo.jp/