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長く寝るだけでは意味がない!新時代に必要な“寝る技術”

新型コロナウイルスの感染症流行をきっかけに、在宅ワークなどライフスタイルの変容を余儀なくされる人は多い。なかでも睡眠に与える影響は大きく、これまでにはなかった悩みも増えているようだ。“良い眠り”を得て日中を活動的に過ごせる秘訣を、睡眠医療を専門とする坪田聡医師に伺った。

長く眠る=良い睡眠とは限らない

在宅ワークによって通勤時間がカットされ、少し遅く起きても支障なく、夜まで仕事ができてしまう――このようなライフスタイルがニューノーマルとなりつつある。自分のペースで生活できる反面、注意したいのが睡眠だ。世界的な研究によると、コロナ禍における睡眠時間は伸びているというが、はたして本当に“よく”眠れているだろうか?

「睡眠時間が長くなっているにも関わらず、睡眠不足を訴える人が多い」と指摘するのは坪田聡医師だ。
 
「コロナ禍で快眠を得られない原因の一つにはストレスがあります。コロナにかかるのではないか、仕事がなくなったらどうしよう…との不安感が睡眠中の悪夢として表れる人も増えているようです」
 
また、特に都心に住む通勤族にとっては、生活リズムの変化による影響も少なくない。日光を浴びる量や運動量も、睡眠には重要な要素だ。しかし、通勤しなくてもいい環境下では、必然的に双方は減る一方。就業時間や働き方の変化が、質のよい睡眠を取りにくい状況を引き起こしやすいともいえる。生活習慣を変えることがむずかしいようであれば、気をつけるべきはブルーライト。
 
「パソコンやスマートフォンから出るブルーライトは、睡眠ホルモン・メラトニンを減らします。青い光は近くで見ると目に入る量が増えるため、目を疲れさせます。特に、暗いところでは、瞳孔が開いているためその影響を直に受けやすい。寝る直前まで仕事をしていると、寝付きが悪くなったり睡眠が浅くなったりし、徐々に夜型にシフトしてしまうことがわかっています。寝る30分〜1時間前には利用を控えてください」

まずはこれを確認!快眠度を知るセルフチェックポイント

日常で「自分は良い睡眠を取れている」と認識できる人ばかりではない。そもそも何をもって睡眠の質を測ればよいのか――自分で確認するには「入眠までの時間」「起床時」「日中のようす」の観点からチェックしてほしいと坪田氏。
 
「布団に入って眠りに就くまでの時間はおよそ30分以内が理想です。それ以上、眠れなければ布団から出て、ストレッチングや読書などリラックスできることをしながら眠気が訪れるのを待ったほうがいいでしょう。40歳代までの人であれば朝まで目覚めないことが理想です。また思った時間にすっきり起きられるか、目覚めた際に疲労感が取れ、回復したと感じられるかも大切。14〜16時を除いて、さほど眠気がなく、活動的に動けるようであれば、良い睡眠といえます」
 
一方で、睡眠が十分に足りているかも重要だ。睡眠不足になると、日中眠くなるだけではない。意外にも眠気を通り越して、自覚できない人も少なくないと指摘する。気分の上下が激しい、ミスしやすい、ケガをしやすいなどの兆候があれば、一度睡眠を見直すといいだろう。

よい睡眠を習慣づける3つのコツ

ほんの小さな心がけで、理想的な睡眠を手に入れることは可能だ。今日から始められる簡単なものを中心に、ポイントを大きく3つにわけると以下になる。
 
1 生活習慣
2 寝室の環境
3 ストレスの解消
 
「生活習慣で最も重要となるのは光のコントロール、続いて食事の規則性です。寝室は自分がリラックスできる環境を整えてください。明るさや音、色、温度・湿度です。色や寝具も関係します。枕カバーやシーツを変えて試してみるといいでしょう。3つ目のストレス解消には、心身ともにリラックスできる入浴がおすすめです。人は体温が下がるタイミングで眠気が訪れます。風呂あがりは30分から1時間で体温が下がり始めますので、布団に入る時間から逆算して入浴するといいでしょう。38〜40度くらいのお湯にトータルで10〜20分。入浴後はストレッチングやヨガなどで身体をほぐすと血流がよくなり、体温が下がりやすくなります。また、呼吸法や気持ちを切り替える行動も有用とされています。3秒で吸って5〜6秒かけてゆっくりと吐き出す。1、2秒挟んで繰り返してください。呼吸に意識を集中させることで悩みを考える余裕がなくなり、気持ちが落ち着いてくるはずです。気になることがあるときには、寝る前にノートに書き出して気持ちに区切りをつける、逆にその日あったいいことを3つ書き出す“3 good things”は続けることで気持ちがボジティブになり、ストレスに対する抵抗力がつくと言われています」

スヌーズ機能はNG?朝スッキリ起きる技

寝起きが悪いと感じている場合、まず見直すべきは睡眠時間。一般的に6〜8時間が平均だが個人差が大きいため、自分に必要な時間を探ってほしい。なかでも「平日と土日の睡眠時間の差が2時間以上ある人」は要注意だ。
 
「例えば平日は7時に起きられるのに、休日になると12時過ぎまで寝てしまう場合は、明らかに睡眠が足りないと考えられます。睡眠不足の状態ですっきり目覚めることはむずかしいものです。睡眠時間を増やすか、昼寝によって調整してください」
 
上手な起き方としては「1回の目覚ましで起きる」こと。数分おきにスヌーズ機能を設定し、何度も寝るのはNGだ。
 
「2度寝は1回だけであれば構いませんが、その際でも20分以内にしてください。また起きたい時間に自然に目覚める“自己覚醒法”も有効であることがわかっています。眠る前に起きたい時間を強く念じること。睡眠中も脳は働いています。寝る直前にしっかりインプットすると、その時間にむけて体内時間が調整され、身体が整っていくのです」
 
何らかの報酬があるほどよい結果が出ているとのデータもあるそうだ。寝起き用に少しだけお菓子を取っておく、ちょっと贅沢なモーニングを用意しておくなど、自分なりのご褒美を準備するといいかもしれない。
 
仕事がない日は、寝溜めをしたいとダラダラ眠ってしまいがちだが、休日の睡眠のとり方次第では、疲れを取るどころか体内時間を崩し、逆効果になることもある。貴重な時間を無駄にしないためにも、起床時間には気をつけてほしい。
 
「早く寝ることで睡眠時間を確保するのは問題ありませんが、なるべく起床時間はずらさないこと。平日プラス2時間以内にしてください。たとえば寝る時刻を1〜2時間前に、起きる時刻を2時間遅らせ、昼寝を1時間半取れば、平日よりも4〜5時間多く眠ることができます」

多忙な現代人にマッチする「ショートスリーパー」

睡眠の重要性を理解しながらも多忙な現代人。より少ない眠りで、日中の時間を有効に使いたいと願う人も少なくないだろう。「5時間快眠法」に関する著書において、ショートスリーパーのメリットを説く坪田氏。一般的にふだん6〜8時間睡眠の人はショートスリーパーになれる可能性があると言われているそうだ。「適切な睡眠時間は人によって違うため、各自が必要十分な睡眠を取ることが第一」としたうえで続ける。
 
「単純に睡眠時間を減らせばいいものではありません。布団の中で“何もしていない時間”を削ることで、日中の稼働時間を増やすといった考え方です。朝ダラダラしていたり、寝付けずに過ごしていたりするムダな時間をカットするだけでも十分効率よくなるでしょう。しっかり寝て、サッと起きる。加えて適切な仮眠は欠かせません。眠りのサイクルを考えると、仮眠は平日20分、休日は1時間30分が理想。これで1週間に約4時間の睡眠が確保できるのです。仮眠を上手に組み合わせれば、短い時間でも良質な睡眠は取れます。また、睡眠時間短縮を目指すうえで最も必要な要素は“明確な目的”です。仕事や勉強、生活において、実現したい夢が具体的に描けると自ずと睡眠時間は定まり、結果として必要十分な量に収まるでしょう」

お話を聞いたのは●坪田 聡さん

日本睡眠学会所属医師、医学博士。雨晴クリニック副院長。 整形外科医・リハビリテーション科医として診療にあたるなかで、睡眠障害がほかの病気の発症や経過と深い関係にあることに気づき、睡眠専門医として現場に立ち始める。コーチングの資格を取得し、2006年には「睡眠コーチング」を創始。2007年から生活総合情報サイト「All About」の睡眠・快眠ガイドとなる。睡眠の質を向上するための指導や普及に努める。著書に『朝5時起きが習慣になる「5時間快眠法」』(ダイヤモンド社)、『睡眠専門医が教える!一瞬で眠りにつく方法』(宝島社)など。